第9話 初めての週末、計画を立てる

 神聖ミューズ学園の寮は意外と規律が緩い。

 学園に所属する以上、授業に参加しないということは許されないが、それ以外であれば自己責任ということで放任されるのである。


 まあこの辺りは物語の都合上というより、国の違う人間、しかも権力者が集まるからという方が大きそうだ。


 なんにせよ、これは俺にとってありがたいことだった。



 今週最後の授業が終わり、新入生は初めての週末を控えた日の夜。

 明日から休日ということで、寮のロビーでは多くの学生たちがこの休みをどう謳歌するかを話し合うために集まっていた。


 とはいえ、ぱっと見渡した限りだと新入生は少ない。

 まだここで話し合うほどの友人関係が築けていない生徒も多いということだろう。


 そんな中、ロビーの隅に集まった新入生の一団。

 俺としては目立たないようにひっそりとしたかったが、その怪しさから必然的に上級生の視線も集まってしまう。


 まあだが、今はそんな視線を気にしている余裕はない。


「よく集まってくれた」


 入学してまだ四日だというのに、初日から下半身丸出しにして暴れているアホ共を成敗していたら、いつの間にリンテンス派なるものが出来てしまった。


 普通は同じ国の有力貴族に集まるものだが、俺の場合は片っ端から力で従えてきた経緯もあり、国も性別もバラバラ。

 

 まあこれはいい。貴族として生きるなら、派閥などは切っても切れないものだから、練習と思おう。


 すでに新入生だけで五十人を超えているらしいが、それはまた後で考えるとして……。

 とりあえずあまり大人数だと迷惑がかかるので、幹部だけを集めた。


 いや、別に俺が幹部って決めたわけじゃなく、叩き潰したリーダー格がそのまま幹部と名乗っているだけだが。


「あのクロード様。俺たちはどうして集められたんですか?」


 幹部メンバーの一人、キノコ頭のブロウが困惑した顔で尋ねてくる。

 そしてそれは他の面々も同じだ。

 

「明日の計画についてお前たちの意見も聞いておきたい」

「ご主人様、こちらに纏めておきました!」

「有能」

「やった! あとでご褒美貰えると嬉しいです!」


 金か? まあ良いけど。


 俺の背後に立っていたミリーがさっと俺に紙を渡し、同じ物を派閥の幹部たちに渡していく。


 幹部たちも恐る恐るその紙を見ていく。

 その表情は、完全に強ばっていた。


 まあ気持ちはわかる。

 今回の計画が成功するかどうかで、今後の学園生活が大きく変わっていくのだから当然だ。


「それでは明日行われる、シンシア・ミストラル公爵令嬢とのデートプランについて、話し合おうじゃないか」


 俺が真剣な表情でそう言った瞬間、周囲が緊張した雰囲気になる。

 どうやら彼らもみんな、真剣に考えてくれるようだ。


 ――おいこれ失敗したら俺たちどうなるんだ⁉

 ――最低でも八つ当たり……下手したら全員この悪魔に食われるかもしれない……。

 ――嫌だ……どうして俺たちがこんな目に……下級貴族の女子を襲ったからか……。

 ――し、死、死……死にたくない……。


 周囲の喧騒で彼らの声も消えているが、どうやら真剣に意見を出してくれている気配を感じた。

 うん、良いことだ。出会いこそ最低だったが、こうして学友としての友情が育まれていくんだろう。


「恥ずかしい話だが、俺はこれまでの人生、魔法の修行一辺倒で女性とデートをしたことがない。故に諸君に知恵を借りたいと思っている。出来れば忌憚ない意見を頼む」


 ――権力で言うこと聞かせるとか……?

 ――馬鹿相手は公爵令嬢だぞ! いくらリンテンス様でも権力じゃ無理だ!

 ――じゃあ力づく?

 ――でもこの魔法学園の生徒会長してるくらいだぜ。一年時にはあの精強なオルガン王国の騎士団にも内定が決まってらしい、厳しいんじゃないか?

 ――でもこの方って脳筋で悪魔だから、その二択しか可能性ないだろ。

 ――それをなんとかしないと、俺ら死ぬぞ!


 どうやらアイデアを出し合ってくれているようで、激しくディベートを繰り広げている。


 俺としてはとりあえず案を出してくれれば採用するかどうか判断するのだが……自信のある提案以外は恥ずかしいのかもしれない。


 この四日間で彼らも俺のことは知ってくれているから、アイデアも出しやすいだろう。


 こいつらは初っぱなから女を襲うくらいだから、相当経験豊富なはず。

 

 それにこちらには女性意見が聞けるように、ミリーを筆頭に襲われていた女性陣も集めてある。

 完璧な布陣と言ってもいい。


 ちょっと派閥メンバーがカオスな気がしないでもないが、俺に逆らったらどうなるかもうわかってるだろうし、大丈夫。


 もちろん俺も人任せなんてするつもりはない。

 これまでの人生で一度もデートなんてしたことないが、必ず成功させてみせる!




 そして翌朝。

 万全の状態で俺は目が覚めた。


「おはようございますご主人様」

「ああ、おはよう」


 どうやら俺より先に起きたミリーが色々と準備をしてくれていたらしく、メイド服を着たまま笑顔を見せてくれる。


 窓の外を見ると雲一つない快晴が広がっており、最高のデート日和だ。


 女子生徒たちの意見を聞いたところ、男は好きな女性の前だとどんな立派な人間でも性獣になってしまうから、対策を取った方が良いと教えられた。


 ――相手を喜ばせること。相手の話を聞くこと。自分のことを話すのはシンシア様が興味を持ったとき、少し語るくらいでいいです! いいですか、少しですよ!

 ――女の子はみんなお姫様に憧れてるんですから、そう扱ってあげてください! いやあの方本物のお姫様みたいなものですけど!

 ――最初のデートで最後までやろうなんて考えたら絶対駄目ですよ! 無理矢理なんて最低なので絶対に駄目です! 傲慢な態度も駄目! 優しく、紳士的な対応が大切です!


 男どもの顔色がどんどん悪くなっていたが、まあそれは自業自得だ。

 とりあえず俺は女性陣の有益な情報をしっかり頭に入れていった。


 性獣対策がミリーを抱くことだというのはちょっと何言ってるのかわからなかったが、まあ女性陣で一致する見解だったらしいので、この世界ではそういうものなのだろう。


 昨日の感じだと、どちらかというと性獣はミリーの方だったけど……。

 改めて彼女を見る。


 メイド服の上から見てもはっきり山がわかるくらい大きい。

 そんな裸はもちろん極上の物で、一瞬昨夜のことを思い出すが俺の身体はもう反応しない。


 これならたとえシンシアとデートをしても性獣にならず、紳士的にいられるだろう。


「どうぞこちらに」


 ミリーに用意された服を着せられる。

 紳士らしくシャツの上からジャケットを纏い、扉に手をかけ――。


「それじゃあ、行ってくる」

「はい、行ってらっしゃいませ」


 いざ、戦場へ。

 シンシアとのデートの始まりだ。

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