第4話 入学二日目、計画開始

 気が付くと、ベッドに寝ていた俺にもたれかかる裸のシンシアがいた。


 スラッと伸びた手足。掴めば指が沈み込みそうなほど柔らそうな、それでいて大きな胸。

 俺の身体には彼女から流れる長い銀髪が触れ、少しくすぐったい


「クロード君。私はもう貴方のモノなんですから、好きに触って良いんですよ」


 シンシアは俺の名を呼ぶと、そっと手を添える。

 ひんやりとして、しかし人の体温が感じられる細い指が絡み合った。


 いったい今、なにが起きているのだろうか?


 昨日ようやく入学式が終わり、そして学園で彼女を見かけて自分の婚約者にしたいと思い、そしてそのための手段とついでに悲劇の未来が待っているミリーを助けるためにメイドに迎えて……。


「ほら、このまま」


 裸のシンシアは俺の手を持ち上げると、そのまま自分の胸に持っていき――。




「ご主人様、おはようございます!」

「んあ?」


 目を開くと制服を着た茶髪の目隠れ少女がいた。


 昨日と変わらず前髪で目隠しをしているが、雰囲気はだいぶ変わった気がする。

 具体的に言うと、入学式からおどおどとしていたのが嘘のように元気だ。


 元々ミリーはお金に困っていた弱小貴族であることもあり、怯えたように過ごしていた。


 それを上位貴族のクソ野郎に目を付けられて、酷い目に合わされたのだが……。


 俺という上位貴族の後ろ盾を得たことで不安がなくなり、こうして元の明るい性格になったのかもしれない。


 もし原作でもこの性格なら相当モテただろうし、これなら下手にちょっかいをかけて来ることもないだろう。


「今日から精一杯お世話させて頂きますね!」


 ……目隠れ元気娘ってのも案外と悪くないな。

 それに来たときに制服美少女が起こしに来るシチュエーションもドキドキする。


 もっとも、それはそれとして俺の幸せな夢を邪魔してくれたのは許せん。


「……」

「あのぉ……なんでそんな怖い目で見てくるんですか?」

「ちょっとその胸揉ませろ」

「ぴゃ⁉ 朝からいきなりなに言ってるんですか⁉ そういうのは契約違反です!」


 そもそもまだ契約していないけどな。

 条件を書いた紙を渡しただけでハンコとかも押してないし。


 しかしまあ、俺と同じ年齢だから多分まだ十五歳なんだろうけど、結構大きい。

 まだ秋冬仕様の制服の上からでもはっきり形がわかるって、相当だと思う。


 ミリーでこれなら、シンシアはどうなるのだろうか?

 やっぱりゲームくらいの大きさなのだろうか?

 これは今から楽しみすぎる。


「で、なんのようだ?」

「き、昨日言ったじゃないですか! メイドとして朝起こしに来ますって! それとも昨日のあれは嘘だったんですか……?」


 急に不安そうな顔になるが、それも当然か。


 彼女のような下級貴族、しかも貧乏な家にとって上級貴族はまさに天上人。

 昨日の契約の話、揶揄われただけだと言われたら、彼女はただ涙を飲むしかないのだから。


「そ、それとも本当に身体を……? あの、えと、それは……」

「いや、悪かった。さっきの胸を揉ませろは冗談だ、忘れてくれ。あと昨日の話も嘘じゃない」


 部屋に備え付けられている時計を見る。

 授業の時間まではまだかなりあり、余裕を持って起こしに来てくれたことがわかった。


「着替えたら朝食を食べよう。そこで今後のことを話すから。なんでお前をメイドにしたいと思ったかとか、そういうのも含めてな」

「は、はい」

 

 ミリーはホッとしたように息を吐く。

 そして少し呼吸を落ち着かせると、覚悟を決めたような瞳でこちらを見てきて――。


「ではさっそくお着替えを手伝いますので、お召し物をお脱ぎ下さい!」

「それは自分でやるからとりあえず出てってくれ」


 真顔でそう言うと、なぜか少しがっかりした様子でミリーは出て行った。



 学食に着くとすでに喧騒に包まれていて、明るい空気が流れていた。


「それじゃあご主人様は、出来るだけ多くの婚約者を作って領地に連れて帰りたいということなんですね」

「ああ。家柄もだが、見た目、性格、この俺が手に入れたいと思った女の子は全員嫁にしたい」

「なるほど……なら早めに動かないとですねぇ」

 

 朝食を食べながらミリーには今後の予定を話した。

 出来るだけ多くの美少女たちを自分の婚約者にしたいと思っていると言ったら引かれるかと思ったが、この世界の貴族であれば普通の感覚らしい。


 ただその中でもルールはあり、まず正妻は決めないといけないのということ。

 次に他の婚約者を蔑ろにしてはいけないということ。


 つまり政略結婚だから書類だけの関係になる、というのは世間的によろしくないことらしい。


「……女としては気分が良くない話なんじゃないか?」

「んー……お互いが認めてるなら良いと思いますよ。元々この学園って、そういう婚活の場って言っても過言じゃないですし」


 いやそこは魔法を学ぶ場だから過言であって欲しい。


「結構昔ですけど、この学園ではこれまで十五人の婚約者を作った人もいるそうですよ」

「それはまた……凄いな」

「なので問題は相手がどう思うか。つまりご主人様の甲斐性や将来性次第ということかなと思います」


 正直、自分でも滅茶苦茶なこと言ってるつもりだったが……。

 ミリーは俺よりずっと積極的に、しかし現実的にどうにか出来ないか考えてくれているみたいだ。


 初日で彼女を味方に出来たのは、実は凄いグッジョブなのでは?


 ぶっちゃけ、この世界で十五年生きてきたとはいえそのほとんどが修行ばかり。


 日本とは異なるこの世界の一般的な常識がやや抜け落ちている状態の俺にとって、ミリーが傍にいてくれるだけで方向性を見誤らずに済むので助かっていた。


「ただ女性関係は揉めること多いので気を付けてください。特に家柄の差が大きいと、どうしても……」

「そういうのは心配いらないな」


 なにせヒロインたちはみんな良い子たちだし、仲良くなれるはずだからな。

 あと俺、全員のことをちゃんと愛するつもりだしな。


 なんか変なフラグを踏み抜いている気がしないでも無いけど、きっと大丈夫だろう。



 廊下を歩きながら朝食で話した続きをし、そして教室に入る。


 まだ入学したてということもあり、新入生はみんな独りぼっちで声かけられるのを待っている、なんてこともなくすでにグループが出来上がっていた。


「なんで?」

「え、だって普通社交界とかで貴族同士って交流がありますよね。誕生日パーティーのときとか近隣の貴族の人を呼びますし……まあ、うちは貧乏だったので出来ないし呼べなかったですけど……」

「いやでも、それってまだ小さいときの話で……」


 そこまで話して、自分のこれまでの歴史を思い出す。

 八歳まではとにかく必死だった。だから同年代の子どもに構ってる暇なんて無く、誕生日パーティーでも美味しいものだけ食べてあとは魔術の鍛錬に勤しんでいた。


 だって世界の命運がかかってたし、こっちだって必死だったんだから仕方ない。


 そして八歳以降、ラスボスである陛下のところに弟子入りして城勤め。

 領地におらず、誕生日パーティーにも参加出来なかった辛い思い出。


 元々神童として呼び名が高かったが、他家では親の贔屓目に思われていた。

 

 その後、子どもでありながらソルト王の世話係に抜擢されるなんてあり得ない出来事により真実として伝わったが、すでに王による囲い込みは終了していた。


 俺は破滅の運命を砕くための切り札として、表舞台には出ることはなく修行に明け暮れる日々。

 なにかあってはいけないからと、交流出来る人間も一部に限られた。


 当然パーティーなど行く暇も無ければ行く機会もなく、こうして侯爵家の子息であるにも関わらず学園でボッチスタートを切ってしまったというわけだ。


「はぁ……神童というのも大変ですねぇ」

「まあいいさ。別に学園には友達を作りに来たわけじゃ……」


 いやでも、まずは友達作りからなんじゃないか?

 恋愛するにしても、知り合うにしても、まずは友人を作ってそこから交流を深めていかないと……。


「よしミリー。まずは友達を作るぞ」

「頑張って下さい!」

「お前も作るんだよ!」

「え、っと……うぅぅ」


 なに当然のように自分は離れたところから応援しようとしてるんだ。

 吐きそうな顔をしていて、相当嫌らしい。


「いいか、授業が終わったらやるぞ」

「は、はい……頑張りますぅ」


 なんか俺相手だったら結構元気なくせに、ずいぶんと弱気な返事だな。

 無理矢理連れてきてお金で釣ったからか俺には普通だが、さては典型的な内弁慶でコミュ障だなこいつ。


 まあいい。どう言ったって俺は大国であるオルガン王国の侯爵家で、ここにいるほとんどの生徒よりも地位が高い。


 だからミリーみたいに取り巻きを作るのだってそう難しくは無いはずだ。


 あとなんだかんだで外面作るのは得意だからな!



 

 そして授業が終わり、俺が何人かの生徒と交流を深めたあとミリーを探して魔力を追うと、なぜか校舎からずいぶんと離れていることに気が付いた。


「まさか俺が魔力で追いかけられないと思ってサボっているのか?」


 これはあとでお仕置きだな、と思って校舎裏に向かう。

 その先には古びた倉庫があり、少しだけ嫌な予感がした。


 なぜならその倉庫は、ゲームのチュートリアルで登場する場所だからだ。


 倉庫に辿り着いた。扉を開く。


「おいミリー、お前なにして――」

「あ……ご主人様……来ちゃ、だめ……」


 その先では、ミリーが制服を無理矢理脱がされて下着姿になっていた。

 必死に抵抗したのか、その頬は叩かれたように赤く腫れている。


 ミリーを拘束するのは五人の男たち。

 誰も彼もが彼女を嘲笑するように下卑た笑いを見せ、俺の登場にも焦った顔をしていない。

 

 たかが貧乏男爵家程度を犯したところで、もみ消すなど訳ないとでも思っているのだろう。


 ――いいかクロード。お前の力は無闇に振るってはならん。だがもし自分の家族を傷つけられたときは……。


「おい、ゲス野郎ども……」


 倉庫に足を踏み入れると、どうやら俺が誰かわかっていないのか、男たちは変わらず嗤ってきた。

 

「ははは、ゲス野郎だって!」

「おいテメェ、この人が誰かわかってんのか? あのドマード伯爵の――」

「俺の女になにしてんだあぁぁぁぁぁん⁉」

 

 一番傍にいた男を殴り飛ばす。倉庫に並べられていた器材とぶつかり、凄まじい音が鳴った。


 まさか問答無用で攻撃されると思わなかったのか、全員が驚いている。

 だがそんなこと関係ない。


「残り四人……」


 俺の物に手を出した以上、こいつらは、ぶっ潰す!

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