第29話 先輩と悪巧み

 俺が勝ったことでブーイングの嵐と黄色い歓声。

 ははは、野郎共の嫉妬なんて痛くもかゆくもないわ。


 女子たちの声援は大歓迎だけどな!


「あの二人を一蹴したと聞いた時点で……いやあのライゼンを一方的に倒した時点で、こうなることが決まっていましたか……」

「イラ先輩、なんでこんなことしたか聞いてもいいですか?」

「もちろんです。ただまあ、それは後ほど。彼らを医務室に運ばないといけませんからね」


 彼らというのはロイド先輩たちのこと、かと思ったがそれよりも明らかにオウカが相手をした派閥の面々の方が酷い目に合っている。

 まあ敵対してきたやつらだから構わないが……。


「さすがにもうちょい手加減覚えさせるか」

「そうしてください。じゃないと、派閥の子たちが怯えてしまいます」


 戦いを終えて熱が下がったからか、ローテンションになってるオウカを見てると少し不安になってくる。

 たしかにこれは少し怖いかもしれない。


「とりあえずこれで、先輩たちは俺の派閥に入るってことでいいんですかね?」

「ええ。そこは約束しますよ。セリカたちも納得済みです」


 そうか、それじゃあこれでもう原作における派閥戦争は終わりか。

 まあ始まってみれば早いものだったな。


 意外と俺も力が使えて楽しかったし、セリカも酷い目に合うことなく……。

 まあ俺には結構酷い目に合わされた感じはあるが、原作よりは全然マシだろう。


「じゃあ俺は帰るので」

「はい。また明日、三人で挨拶に伺わさせて頂きます」


 そうして俺と二学年の派閥戦争は終わり、オウカを連れて帰っていると……。


「クロード君」

「あ……」


 闘技場の通路を歩いていると、正面には綺麗な銀髪の少女、シンシアが立っていた。


 オウカは俺とシンシアを交互に見た後、なにかを察したのか足を止めた俺の前に出る。

 

「某は先に行っておきますね」

「ああ」


 空気の読める子だ、と先輩であることも忘れて思う。


 オウカがいなくなると、シンシアは甘えるように俺に抱きついてきた。


「ん、どうした?」

「心配だったから」

「そっか……」


 俺の強さを知ってれば心配とか無用だと思うんだけど、それはまた別の話なんだろう。 

 それにこうして想ってくれる人がいるのは俺としても嬉しいことだ。


「オウカちゃん……あの子も恋人になったんだよね?」

「ああ。駄目だった?」

「ううん。クロード君を独占出来るとは思ってないもん。それにイガラシ家はジパングの名門だから、家格も合うしね」


 単純な恋愛感情だけでなく、こういうところまで気を配ってくれるのは彼女もこの世界の貴族令嬢だからこそ、だろう。

 もし日本だったらとんでもないクズ男なわけだが……貴族として生まれて心の底から良かった。


「一人で行かせて、気を使わせちゃったね」

「あとでちゃんとご褒美あげないとな」

「ご褒美……」


 それがエッチなことだとわかったのか、シンシアが顔を紅くする。


 ミリーやオウカは肉食系だったから、むしろ俺が食われる側だったが……。

 まだそういうことに対して耐性のない彼女に対しては、いきなりそういうことをしようとは思わない。


「シンシアにはシンシアのペースがあるから、気にしないで」

「うん……」


 髪を撫でるとすっと指が入り、本当にサラサラとしていて気持ちいい。

 一生触れていたいが、ここはまだ闘技場の通路。


 それに俺もさすがに汗臭さとかが気になってしまう。


「部屋行く?」


 腕の中で彼女はコクリと小さく頷いた。


 さすがに抱くことはしないが、その代わり色々と話をしたい。

 だって彼女とこうして学園生活を一緒に出来るのは、一年もないのだから。




 その夜、シンシアが帰ったあと。

 火照った身体を沈めたいと言って部屋にきたオウカにご褒美を上げ、それを見ていたミリーが混ざり……。

 俺は肉食獣の化身である二人を全力で相手取って勝利し、凄まじい爽快感で朝を迎えた。




「それでは約束通り、我々はみなリンテンス様の派閥に入ります」

「……まあ、男に二言はねぇからな」

「い、言っておくけど、下に入るからってお前の物になったわけじゃないからな!」


 授業終わりに一学年の教室にやってきた四天王の面々がそう言って、正式に俺の派閥に入ることを宣言した。


 それを見たことでこれまでどっちつかずになっていた生徒たちは、こぞって俺の下に入りたいと言い始め、一気に勢力が増大。


 ただしそれはある意味劇薬であり、一学年の一部と三学年の男子生徒の反発を招いた。

 そして二学年の中でも、それぞれの派閥を抜けて反リンテンス派に入った者が増え……。


 これにより大陸中の貴族が集まるこの学園において、ほとんどの生徒がたった二つの派閥に分断されることとなる。


「いや、リンテンス派と反リンテンス派の二つだけって、さすがに酷くないか?」

「それは貴方の自業自得でしょう」


 イラ先輩に話があると呼ばれ、空き教室で話すことにした。


「正直言って、貴方の力はあまりにも強大すぎた。あのまま派閥がいくつもある状態では、本当に大陸戦争になりかねないほどでしたよ」

「うげぇ……」


 それは原作でも起きた、最悪の事態。

 

 勢力が中途半端にあると、それぞれの思惑が過激化していき結果として暴走する者も増えてくる。

 その結果がセリカの事件だったり、今後は起きないであろう原作の事件だったりに結びついてくるもので、イラ先輩はその危惧を見越した上で先手を打ったらしい。


「それぞれ明確な敵がいれば、組織の一本化はそこまで難しくありませんからね」

「どこぞの王女様と同じこと言いますね」

「まあ向こうも最初からその気だったのでしょう。どちらにしても僕らでは貴方には絶対に勝てないとわかったので、早めに事態を整理させて頂きました」


 まあ派閥なんてトップよりもその下が神輿を担いで盛り上げるものだからな。

 本人たちも勢力拡大をしたいというよりは、自分の身の回りを守りたいという方が強かったのだろう。


 そしてあれだけ盛大に俺の強さを示せば、彼らが下につく理由にもなる。


「問題はレオナ王女です。あれ、どうするつもりですか?」

「……」


 問い詰めるような言葉に、俺は無言で一枚の手紙を取り出すとイラ先輩に見せる。


「なんですかこれ?」

「ソルト王たちからの手紙」

「他国の情報をあまり簡単に見せない方が……いえ、信用して頂いていると思いましょう」


 イラ先輩は手紙を受け取り、そして開く。

 その内容を見ていき、ギョッとした顔をした。


「これは……つまり?」

「ああ……まあつまり、やってしまえというお墨付きですね」


 俺にとってはある意味朗報であり、同時にとても恐ろしい情報。

 だがこれがあれば、俺が今までレオナ王女相手に困っていた状況を一変することが出来る。


「なるほど……では私の方で舞台を整えます」

「頼みます。それで、この学園の派閥戦争も全部終わりを迎えますから」


 お互いうなずき合う。

 やっぱり話が早い人と会話するのは楽だな。


「これが終わったら、クロード様はどうされるおつもりですか?」

「そんなの決まってますよ」


 学園で貴族令嬢のハーレムを全力で楽しむんだよ。


「はは。それはいい。まさに男の夢だ。僕もこんな派閥がどうとかより、可愛い婚約者を見つけて楽しく過ごしたいですね」

「でしょ。それが一番だから、さっさと終わらせよう」


 そう言うとイラ先輩は楽しげに笑い、今後のことについて語り合った。

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