第38話 夏休みに旅行へ行く

 夏休みに入り、ミリーが俺の娘さん下さいと旅行の計画を立ててくれた。


 あちこちの国に行くため、普通に馬車旅をすれば一年かかるそれも飛竜を使えば夏休み中にバカンス込みでも十分回れるペース。

 さすがに俺のこともよくわかっているだけあって、有能だ。


 そして空の旅が始まり、貸し切りとなった飛竜のラウンジで恋人たちと談笑していると――。


「えーと、なんでここに私もいるのかな?」


 唐突にアリスがそんなことを言いだした。


「どうせミリーの実家にも行くんだからいいだろ? オルフェウス王国に帰るのも遠いだろうし」

「計画見させて貰ったけど最後の最後だったよね⁉ あと私の家だって飛竜くらい使えるよ!」


 アリス・フォルセティは北方の小国オルフェウス王国の公爵令嬢だ。

 つまりミリーと同じ国だから誘ったとき、楽しそう! と乗っかってきたのになにを今更。


「だってこれ、クロード君のハーレム旅行じゃん!」

「そうだが?」


 今はソファに座り、右にシンシア、左にセリカ、少し離れたところではレオナがオウカを誘っている。

 俺の女を誘うとは……またレオナにはお仕置きが必要だな。


「男として、恋人の親にはちゃんと娘さんを下さいって言わないと」

「そういうのは普通、正式な日を家同士で決めて、しかも上位貴族が待つ側だよ!」

「全員上位貴族なんだから仕方ないだろ」


 基本は王族や公爵家の方が上だが、リンテンス侯爵家の場合大国の、しかも大陸に名を馳せる名家だからどちらが上かと言われると判断に困る。

 

「これだけの良い女性たちを婚約者にするんだから、男なら誠意を見せるのが当然だ」

「う、うぅぅ……ちょっと男らしいこと言ってぇ」


 なんか悔しそうな顔された。


「セリカ、こっち」

「ん? ああ……」


 セリカを俺の太股の上に乗せ、顎を撫でると気持ちよさそうに目を細める。

 最近の彼女は本当にライオンの子どもみたいだ。

 別に愛玩動物というつもりとは思っていないが、それでも赤ん坊を愛でる雰囲気になってしまった。


 まあ当の本人が嬉しそうだからいいか。


「セリカちゃん、可愛いね」

「シンシアもやってみたらいいよ」


 女の子同士でイチャイチャするのを見るのも楽しいし。

 セリカは身体が小さいからか、姉妹みたいで愛おしいな。

 

「ほら、アリス。ここ空いたからいつまでも立ってないで座ったらいい」

「……なんかなし崩しに自分のハーレムにしようとしてない?」

「して欲しいならいつでも言ってくれ。アリスなら大歓迎だ」

「むぅ……」


 少し不貞腐れながらも隣に座ってくれる。

 まあミリーが離れて食事の準備をしているので、このままだと一人ぼっちになるからな。


「無理強いはしないさ。それよりせっかくの旅行だし、楽しもう」

「まあ、そうだね」


 別に無理強いしても受け入れてくれる気がするが……いちおう彼女には彼女なりの矜持があるのを知っているので、それを呑み込むまでは俺が我慢しよう。


 実はアリスは父親がメイドに手を出した際に生まれた子という事実がある。

 手を出した、と言っても母親である第一夫人は子を宿すことが出来なかったため、ずっと一緒に育ったメイドが代わりに産んで自分の子どもにしたという話なので、不倫とかではないが……。


 本人もそれを知っていて、それでも両親に愛されて育ったことで大貴族として頑張ろうとしていた。


 だがこれが婚約となると、相手を騙すことになる。

 なにせ半分は平民の血が流れており、相手によってはそれが許さないという者もいるだろう。


 それが彼女の負い目。

 結局原作ではその事実を突きつけたクソ野郎を倒して、クロードが自分の婚約者にしてしまうのだが……。


「どうするかなぁ……」


 実はすでにアリスの敵になるやつ、この間の派閥戦争でぶっ飛ばしちゃったんだよな。

 別に原作通りに進めたいわけじゃないが、あとで変なことになるのも面倒だと思ってしまう。

 

「どうしたの?」

「どうすればアリスが恋人になってくれるか考えてた」

「隣にこんな可愛い恋人がいるのによくそんなこと言えるね⁉」


 いやまあそうなんだけど……。


「シンシア、セリカ。二人は俺がこれ以上恋人増やしたら嫌?」

「え、別に良いと思うけど?」

「んー私も構わないぞ。今更だし」


 よし、許可は取れた。

 オウカは俺の言うことには従順だし、レオナに関してはたとえ嫌がっても関係なく従わせる。

 というかあいつも今の状況を楽しんでるから、嫌とはいわないだろう。


「というわけで」

「ならないよ!」

「この間は乗り気だったのに……」

「あれはクロード君がエッチだったから、つい流されちゃっただけだもん!」


 なるほど、つまりエッチな雰囲気になればいいと……。

 そう思っていたら背後から声をかけられる。


「おいクロード、お前なにか変なこと考えてないか?」

「あ、カルラ姉さん。別に考えてないよ」


 レオナがいるので護衛として付いてきた彼女は、呆れた視線を向けてくる。

 ここは学園内じゃないので、俺の師匠兼姉としての立場でいてくれるみたいでちょっと嬉しかった。

 

「昔はあんなに努力家で素直だったお前が……どうしてこうなった」

「こうなりたくてずっと努力してたからこればっかりは……」


 強くなる理由? 女のためです。

 言葉だけ聞けば結構格好良い。


「まあ、あまり羽目を外しすぎるなよ」

「わかってるよ」


 そう言いながら、彼女は少し離れたところに移動して俺たちを見守ってくれる。

 カルラ姉さんがいる限り、この旅に危険はない。


 そしてその日の夜、俺は盛大に羽目を外すことになる。

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