第37話 終業式の日、セリカと約束

 レオナを俺の恋人にすること。

 それをソルト王に報告すると薄く笑われた。


「我が娘を頼んだぞ」


 ……レオナが暴走したら俺のせいになるんだよなぁ。


 ソルト王の言葉に籠められた意味を考えると、色々と怖いがまあ信頼の証と思おう。


 各国の王族クラスが集まったということで上位貴族は大規模なパーティーが行われているが、さすがに学園はこれに関与しない方針を示した。


 というわけで学生である俺たちも不参加。


 ただあとで聞いた話だと、やはり俺のことはだいぶ話題になっていたらしい。


 大陸の覇を狙っているのではないか、などという噂を聞いたときは笑ってしまったが――。


「あのねクロード君、笑い事じゃないんだよ。学園を一人で支配しちゃったってことは、将来の重臣たちを抑えたってことになるんだから」


 シンシアからそう注意されて、たしかにそうだと思い直す。


 俺の目的はただハーレムを作りたいというだけだが、あれだけの力を見せつけたうえでロイド先輩やセリカ、イラ先輩にオウカを支配下に置いた状態というのは、端から見たら大陸の覇王を目指していると言われても納得してしまう。


 あ、ついでにブロウも。あいつなんだかんだで辺境伯の家柄だから。


 そこにきてレオナまで手籠めにしたのだから、ソルト王に反旗を翻すと思われても仕方ないのだろう。

 当の本人は受けて立とうと言って、笑いながら爆撃してきてもおかしくないが……。


 というかあの公式チートと敵対するとか絶対ごめんだし、なにより覇王とか面倒なこと絶対やりたくない。


「というわけで、派閥は解散します! 今後好きにしていいが、俺を巻き込まないように! あと俺の女に手を出さないように!」


 一学期が終わり、終業式。

 学園生全員を集めた集会で、壇上に立った俺は、そう宣言する。


 せっかくここまで派閥の規模が大きくなったのにそれを捨てるなんて。

 そんな声とともに動揺が広がるが、上位貴族になればなるほど、今後の危惧を理解出来るからか同様は少ない。


「権力で無理矢理従わせるのは禁止! やるなら正々堂々! これを守って派閥を作ること! 派閥戦争で勝利しても、やりすぎと判断した場合は俺が直々に潰す! 要求は相手の可能な範囲でやるように!」


 言いたいことを言い切った俺は壇上から降りる。


 学生達はどの範囲までが許されるのかわからず戸惑いが広がっているが、それに答える義理はない。


 そこは俺がルールだ。

 わからないなら、大丈夫な範囲でマージン取れ。


 そんなことに答えるよりも、これからの夏休みの計画を立てる方が大事なのだ。


「しかし濃い三ヶ月だった……」

「たったこれだけの期間でここまでやったご主人様は、学園の伝説になりそうですね」

「卒業したら忘れてくれていいんだけどな」


 原作では酷い目に合わされるはずだったミリーだが、俺に助けられたことで普通に友人も出来て楽しんでいる。

 特にアリスにとの仲は良好で、俺と二人に守られているので今後なにかが怒ることはないだろう。


「ああそうだ。夏休み、レオナ以外の恋人全員の実家に挨拶回りをしながら旅行するから、計画頼む」

「かしこまりました。移動は飛竜でいいですか?」

「ああ、金に糸目はつけなくていい」


 飛竜というのは本物の竜ではなく、魔力で動く飛行機のようなものだ。

 見た目を竜にする理由は空の魔物に襲われないようにするためらしいが、俺は多分ロマンを求めた結果だろうと睨んでいた。


「セリカ様とアリス様はどうします?」

「もちろん入れてくれ」


 まだ恋人じゃないけど、ここは譲れない。

 

 特にセリカに関しては約束済みなのだから、当然だ。

 派閥戦争以降、忙しくてちゃんと話す機会がなかったが……。


「もう俺に責任とかないからな。というわけで今から行ってくる」

「はい、いってらっしゃいませ」


 なんだかんだこの世界に来てからリンテンス領と学園以外はちゃんと見たことないからな。

 夏休みが楽しみだ。



 

 セリカを部屋に呼び出すと、ほどなく彼女がやってきた。


 緊張した表情で、身体も硬い。

 こんな状態じゃ俺はともかく、セリカは楽しめないかもしれない。


 ベッドに座った状態の俺は、手招きをする。


「リカちゃん、こっちおいで」

「……」


 いつもならツッコミを入れてくれるのに、今日は黙って隣に座った。


 軽く手を握ってみると、ビクッと反応し、それが可愛いんだけどちょっとかわいそうにも思えてしまう。


「少し話そう」

「……うん」


 元々身体が小さいが、今日は特に小さく見える。

 俺は彼女が実家でどういう風に過ごしてきたのかとか、家族の話、特に小さい妹がいて可愛くて大好きとか、趣味の話をする。


「妹はまだ五歳なんだけど、家にいるといつも私の真似をするんだ」


 家族の話が特に良さそうだと思い、しばらくそんな話を続けると、少しずつ緊張が解れてきたからか、言葉も流暢になっていく。


「うちの領地は獅子が守り神として伝えられていてな、よく獅子のように強くなれ、なんて言われて……」


 ふと、セリカの目線がとある場所に向く。

 以前サブクエストで手に入れた、獅子の人形だ。


「可愛い……」

「気に入ったならあげようか?」

「え、でも……」

「手に入れたはいいけど、俺には可愛すぎるしね」


 彼女に手渡すと、ギュッと抱きしめる。


「あ、ありがと……大切にする」


 可愛いって言うけど、そんなセリカの方が可愛いって。

 あ、駄目だ俺もう我慢できそうにない。


 獅子の人形を抱きしめるセリカを、そのまま抱きしめる。


「う、わ……ぁ」

「大切にしてね。俺もセリカのこと、大切にするから」

「う、うん……」


 汚れないよう獅子の人形を一度ベッドの奥において、そのままベッドに押し倒す。

 すべてを脱いだ彼女の小さな身体は、俺が本気になれば壊してしまいそうなほど儚い。


「リンテンス……そんなに見られたら、恥ずかしい……」

「クロードって呼んで」

「くろーどぉ……」


 恥ずかしそうにする彼女を無理させないよう、丁寧に丁寧に……。

 俺の抱きついてきて耳元で大好きと言ってくれる彼女が俺も大好きで――。


「クロード、その……もう一回いいか?」

「もちろん」


 最終的には向こうからのおねだりに逆らえるはずがなく、全力で楽しんだ。


 普段の凜々しい彼女の愛らしい姿を見ているのは、俺と、獅子の人形だけだった。

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