和歌ではないか

「のにりちや、そかせへまもぬ、はねこのか、ねたひ……和歌じゃないね」

 七五調で読んでいた伏見がお手上げのポーズをした。

「全部ひらがなからの連想か、悪くないんじゃないか」と小川。

「上の句、前半の五七五だけあるならば下の句、後半の七七を当てさせるクイズなんだろうけど、ねたひが邪魔だな。ヒントとしても中途半端だし……」

「そもそも意味をなす文字列ではない」

 小川の指摘に伏見は首を傾げる。

「そうか、俺たちにはピンとこないだけで平安貴族のみなさんにはちゃんと意味が通じるのかも。俺に言わせりゃ、古典の授業に出てくる和歌なんか意味不明だよ」

「んー、まぁ確かにな」

 小川も同意する。

「“や”は呼びかけだろ。これは和歌じゃなくて俳句だけど“松島やああ松島や松島や”の“や”」

「呼びかけかどうかはわからんが、あるな、その句は」

「だから、最初は“のにりち”に呼びかけているんだ。で、“のにちりや”」

「なんだよ、“のにりち”って?」

 堂々と伏見は首を振る。

「知るか。“のにり”の土地で“のにりち”ってとこか」

「“地”はいいとして、じゃあなんだよ、“のにり”って。これは和歌じゃない。落書きか暗号だよ」

 暗号というワードに伏見の目が輝く。

「なるほど、全部ひらがなってのに意味がありそうだな」

「そうか」と小川は慎重だ。

「いろは歌ってなかったっけ?」

「あれも和歌だ。すべての文字を一回だけ使ってつくるだけで歌には違いない。意味が通らないことには歌にはならない。それにこれは……」

 小川は紙を指差した。

「“か”が二回使われている」

「“の”もだな」

「これが暗号ならば、複数回、用いられている文字は手がかりになる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る