お菓子の箱

 驚いたような顔で伏見は倉坂を見る。

「ちょっと待って」と倉坂は演劇部室のなかへ入っていった。本が積まれた机の上から、小さな箱を取り上げた。

「こういうお菓子の箱でいいじゃん。で、なかにお菓子じゃなくて毒入りの餌を入れておく」

「べちょべちょちょになるだろ」という伏見の肩に小川は手を置いた。

「ツナ缶みたいなのを想像してんのか。別に乾燥したドッグフードみたいなやつでもいい。倉坂、お前、たいしたもんだよ」

 ほめられて倉坂は嬉しそうだった。

「なんなら本物のなかに外見を似せた毒入りのものを二、三個混ぜておけばいい。コレなら万が一、見咎められても切り抜けられる公算は高い。ま、今はだいぶ騒ぎが大きくなっているようだから、これでも危険は危険だけどな」

 浮かれた様子だった倉坂の顔がくもった。

「でもさ、お菓子の箱を持ち歩いていてもおかしくない……あ、これは駄洒落じゃないからね」

「いいから、続けろ」と小川。

「ってことはさ、お菓子の箱を持ち歩いていても不審に思われない人だよね、犯人」

 あ、と声をあげた伏見の隣で小川は声を落として言った。

「具体的には?」

 振られて倉坂は小川を見据えた。

「おじさんじゃないよね、少なくとも」

「別におっさんがチョコやクッキーを持っていてもいいだろ」

「でもさ、こういうお菓子を持っているのってうちらみたいな女子高生とかちっちゃい子どもを連れている母親とかだよ、大概」

「別に子どもの面倒をみているのが父親でも構わないだろ」と、なお小川はこだわる。

「そうだけどさ……」

「いや、わかるぜ。つまり、倉坂はこう言いたいんだろ。猫に毒入りの餌を食わせてまわっている犯人は……」

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