夏休みは終わった

 八月三十一日が終わった。

 夏休みは終わった。

 九月一日がやってきた。

 部室のドアを開けるなり、小川は待ち受けていた伏見から不機嫌な声を浴びた。

「おい、おっさん、終わっちまったじゃねーかよ、夏休み」

「だな」

 力なく小川は応じた。

「なんだよ、夏バテか」

「かもな。そうめんを食べ過ぎた。あれは炭水化物の塊だ。他の栄養素を摂らないとバランスが偏る」

「肉でも食いいくか」

 ふっ、と小川は笑って言う。

「もう胃が駄目だ。胃じゃなくて腸か。下手に食ったら腹をくだす」

「よせよ、それより、どういうことなんだよ、あれ」

 やけくそのように蝉が鳴いている。

「原の件か」

 ためらいがちに伏見はうなづく。

「何者かに襲われて、未だに意識不明って噂だ。九月になって学校が始まれば姿を見せるかと思いきや、今日もいねぇ。おまけに他の先生たちも言葉を濁してなんだか……」

 続きは小川が引き取った。

「感じ悪い、か?」

 うんうんと伏見はうなづく。

「解かないと死ぬんだったよな。俺たちはなにも解いていない。でも誰も死んでない」

「誰か死んだほうがよかったとでも?」

 慌てたように伏見は首を振る。

「違うよ、そうじゃない。死んではいないけど、原先生は死にかけている。あのメッセージで犯人が警告したのは原の命なのか」

「違うな。思い出せ、メッセージは“夏休み最後の日までに解かなければ死ぬ”だぞ。期限より早く原は襲われた。だから、違う」

「じゃあ、原は無関係なのか」

 少し考えた後、小川は言う。

「わからん。夏休みが終わり、俺たちはなにも解かなかったが人は死ななかった。だとすると、考えられる可能性は大きく二つある」

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誰が駒鳥をなにしようが僕には関係ない アカニシンノカイ @scarlet-students

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