毒といえば

「そういう爺くさいこと言うとまたオッサン呼ばわりされるぞ」

 そう言った後で伏見はくしゃみをした。

「毒で思い出したけど」と倉坂が語りだす。

「最近、うちの高校の周りでたくさん猫の死体が見つかってるのって、やっぱ毒みたいね。噂だけど」

 続いて伏見も声をひそめてしゃべりだす。

「らしいな。ついに警察も本格的に乗り出したそうだ。噂だけどな」

「ちょっと待て。猫の死体ってなんだ」

 倉坂と伏見は驚いた様子で顔を見合わせてから小川を見た。

「知らないやつがいるとはな。こんな大騒ぎになってるのに」

 小川たちの高校周辺では、相次いで猫の死体が発見されていた。最初に騒ぎになったのは五月の大型連休明け。六月になり、発見のペースが上がっていた。

「頭のおかしな猫嫌いの女が毒入りの餌を食わせてるって話だけどな」

「女? どうして性別がわかる? 不審な人物が目撃されてるのか?」

 早口で小川は問う。伏見は困ったように倉坂を見てから、気まずそうに告げる。

「噂だ、噂、そういう噂」

「見つかった猫から毒物の痕跡が検出されたのか?」

「らしい、という話だ。だから警察が乗り出してきた、という噂だ」

「毒入りの餌でも見つかったのか?」

 倉坂は首を振った。

「それはまだらしい」

「まだ? まだとはどういう意味だ?」

 なにか口にしかけた倉坂を小川はさっと手をあげて制した。

「いや、意味はわかる。そもそも毒入りの餌自体が存在していないのにもかかわらず、ある前提で話しているのがひっかかっただけだ。でも、そうだろう? 噂が本当で警察が捜査しているとしよう。動物の命を奪うのも犯罪だからな。どんだけ人員と時間を割いているか知らんが警察が毒入りの餌を見つけていないということは犯人あるいは犯人一味は毒入りの餌を放置しておく罠スタイルでなく、直接、猫に毒入りの餌を与えていることになる。なぜそんな面倒なことを? 世界から猫を根絶やしにしたいなら罠のほうが効率的だ。しかも目撃されずに済む」

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