猫
そこまで言うと、小川は壁を叩いた。
「わからん。本当にいるのか、連続猫毒魔なんて? 噂に過ぎないんじゃないのか?」
倉坂と伏見は気まずそうに顔を見合わせた。さらに小川は疑問を呈する。
「女ってのもな、ひっかかる。普通、こういう犯罪者を漠然と思い浮かべると男性になる。なのになんで女なんだ? あえて男ではなく女とすることで信憑性を与えたい、犯人像を具体的にしたいという意図みたいなものを俺は感じるがね」
でもさ、と倉坂が反論を試みる。
「毒って女の人の犯行手段だっていうじゃない。非力な女の人でも命を奪うことができるから」
「そうだよ、それにほら、女は陰湿だからさ」
口にしてからしくじったと思ったのか、伏見は顔をゆがめる。
「というご意見に対して言いたいことはあるか」と、小川は倉坂を見る。
「そうね、ま、確かに女は陰湿かもね」
小川は首を振った。
「陰湿さと性別は関係ないだろ。男だって陰湿なやつはいる。確かに男と女の肉体には差がある。筋肉がつきやすいのは男だ。だからといって、女だってその気になれば人の命を奪えるくらいの暴力を振るえる。人間は道具を扱えるサルだからな。ナイフ、ハンマーなんでもござれだ」
ふんふん、とうなづいて伏見が言う。
「確かにな。ましてや相手は猫だ。人間よりもはるかに簡単にやっちまうことはできるだろう」
「そうかな」
疑問を投げかけたのは、倉坂だ。
「だってさ、猫ってすばしっこいよ。人間よりも俊敏。おまけに小さいし、捕まえて頭ぶん殴るなら人間のほうが簡単」
「だから、毒なのかもな。捕まえて切りつけるのは難しいから、毒。騒ぐ猫を小脇に抱えてナイフを握っているところを目撃されたら、一発アウトだからな。毒入りの餌を与えるだけなら、ただ餌をやっているようにしか見えない」
難しい顔をして伏見が言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます