山菜の味
「やめなよ、マジで。大人げない」
小川の顔色を気にしながら、倉坂は伏見をたしなめる。対する伏見は「いいんだよ」と真に受ける様子もない。
「いいんだよ、俺の顔は中一の頃から基本的にはほぼ変わってない。その頃からあだ名はオッサンだった。今更、気にしない。中学生ならまだしも、この歳だ。傷つくこともない。むしろ、お前みたいに気を遣われるほうが嫌だな。傷つきはしないが気にはなる」
大人の余裕を漂わせて小川は淡々と口にする。
「うーん、なんかでもなぁ」と倉坂は煮え切らない様子だ。
「よくよく考えると、昔から妙な子どもだったんだよ。小学生の時分からイカの塩辛とか山菜とか好きだったしな。俺の叔父さんは、あ、これは中年男性という意味ではなくて親戚関係を表す叔父さんな。俺の叔父さんは俺がウドが好きだとわかると、どこからか調達しきて裏山をウドだらけにした」
言いにくそうな顔で倉坂が訊ねる。
「ウドってなに?」
「なんだ知らんのか。ウドの大木って言うだろ。あのウドだ。枝がトゲだらけで採るのはひと苦労だが、うまいぞ。天ぷらが絶品だ」
はぁ、と倉坂と伏見のリアクションは薄い。もっとも、小川は二人の反応など気にしてはいない。
「お前ら、嫌いだろ、ワラビとかゼンマイとか」
「なぜあれを群馬のおばあちゃんが田舎に行くとあたしが喜ぶと思って出すのか理解できない」
「なんだ、倉坂。お前の田舎も群馬か」
しばらく群馬談義を続けていた小川と倉坂の間に、伏見が割って入る。
「俺をのけものにしないでくれ、頼むから」
悪い悪いとたいしてすまなそうな様子も見せず、小川は言う。
「味覚ってのはあれなんだろ。子どもの頃は敏感で、特に苦いのがダメってのは毒物を体内に入れないために必要な一種の防衛機能なんだろ。そう聞いたことがある。大人になると味覚が鈍る、なにかが抜け落ちてきて今まで不味いと判断してきたものの味がわかるようになるんだと。余計なものが削ぎ落とされると本質が見えてくる。人生と同じだな」
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