The Siamese Twin Mystery
きたぞ、と小川は伏見を見た。うなづいてから語り出す。
「謎部は謎部です」
「あぁそうだね、なるほど……」
原は小川と伏見を交互に見た。無言の時間が続く。
教室とはまた違う職員室ならではの喧噪のなか、小川と伏見は次の言葉を待っていた。
「……とはならないよね。具体的になにするの?」
民族学や社会学といった従来の学問のジャンルにとらわれず、自由に不思議に思ったことについてアプローチする云々。
前もって用意してきた説明を口にしようとした小川を、原は手で制した。
「伏見、伏見の口から聞きたいな」
舌打ちしたい気持ちを抑え、小川は伏見を見た。
「……謎を……解き明かし……ます、はい」
「ふぅん」
「謎を、解き、明かし、ます」
伏見は切れ切れに口にした。
「それはさっき聞いた。だから、二度言わなくていい」
小川は原のデスクにあるペーパーバックに気づいた。
タイトルは“The Siamese Twin Mystery”だった。ペーパーバックの下には文庫本があった。表紙は見えないが背表紙の一部は見えた。「の事件簿」というタイトルの一部からすると、推理小説のようだ。
原はミステリ好きらしい、と悟った小川はあるプランを思い付いた。
まず横を見て、伏見に視線を送った。小川が見ていることに伏見が気づいてから、ゆっくりと視線を机の上に運んでいく。
ペーパーバックと伏見の瞳との往復を三回繰り返した。
ダメか、と小川が観念しかけたところで原が口を開いた。
「なにが気になるんだ?」
小川はペーパーバックを手に取った。
「先生、ミステリ、お好きなんですね」
「まぁな。でも、これは趣味で読んでいるんじゃない。英語の教材として……」
原の言葉を遮り、小川は言う。
「謎部の顧問になっていただけませんか。先生、お好きなんですよね、推理小説」
ぱち、ぱちと原の瞼が動く。
「どういうことだ、俺が顧問? 謎部ってのはつまり……」
ここだ、と気合いをこめて小川は言う。
「はい、いわゆるミステリ研究会だと思っていただいても差し支えはないかと」
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