昔はなかったゲリラ豪雨
「びびった。なんだ? 事故か?」
不安そうに言って、伏見は小川の顔を見た。
「雷だな」
「え、でも晴れてるぜ」
「晴れてたって雷はあるだろ」
伏見は首を傾げている。
「それにほら、雨、降りそうだぜ」
小川の言葉が終わるか終わらないかというタイミングで雨が降ってきた。雨が安普請の部室棟の屋根と壁を叩き、音をたてる。
開いた窓から雨が吹き込んでくる。
「夏の雨って感じだなぁ」
しみじみと口にして、小川は窓を閉めた。
「窓閉めると暑いだろ」
「閉めなくたって暑いさ」
「それもそうか。しかし、ゲリラ豪雨ってのもな。昔はなかったよな」
大きく小川はうなづく。
「そうだな、こんな激しいのはなかったよな。それより正解はなんだったんだ?」
あぁ、と伏見はノートを示す。
「なつやすみさいこのひまてにとかないとしぬ」
「死ぬ?」
小川の声が裏返る。
「らしい。でも、“さいこ”と“ひまて”がわからん」
「濁音だよ」
不思議そうな顔の伏見に小川は言う。
「がぎぐげご、ざじずぜぞ。濁る音だ。点々がつくやつ。つまり、これはあれだろ。しりとりで“ば”とか“だ”で終わった言葉を“は”とか“た”で始まるのもオーケーにするのと逆のパターン」
「なつやずみざいごのびまでにどがないどじぬ」
「わざとやってんだろ」
「少しは」
「つまり、こうだ。夏休み最後の日までに解かないと死ぬ」
「解く? なにを?」
「なんらかの謎、かな」
「なんの謎だよ」
小川は首を振った。
「てことは、これは俺らミステリ研究会への挑戦状ってことか?」
「そう……なるのかな」
「解かないと死ぬのは……」
伏見は顎の下で指を立て、自分の顔を示した。
「そう、ふっさん。そして、俺という可能性もある」
「も? “も”ってなんや、おっさん。他になにがあるんだよ」
冷静に小川は人差し指と中指を立てる。
「ピースしてる場合か」
「可能性は二つある」
「二つ?」
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