ん
「アホか。“ん”があるだろ、“ん”が。日本語で“ん”で始まる言葉はない。つまり、最初の“の”が“ん”になるパターンのずらしは成立しない」
あぁ、と伏見は手を打った。
「さすが、おっさん。頭がいい」
「嬉しくないな」
まぁまぁと手を上下させて、伏見は言う。
「でもさ、ということは最悪、最後の四十四パターン目でわかるってこともありうるってことだろ?」
「理論上はな。でも、普通に考えろ。半分もやりゃ出てくる。半分は二十二か。半分で駄目でも四分の三もやりゃあ解決する」
「俺、運悪いんだよ。それに四分の三ってことは、三十三パターン試すってことだろ」
うんざり、といった感じで伏見は顔をしかめる。
「たった三十三回のトライで成功なんて、馬鹿にしてんのかってほど高確率だ」
伏見は納得していない様子だ。
「ま、やってみようか。運試しだ。ふっさんは“のにりちやそかせへまもぬはねこのかねたひ”を前に一文字ずつ遡ってずらす。俺は後ろに進めていく」
「嫌だよ、そんな面倒なこと」
「じゃあ、勝ったほうがジュースおごり。これでどうだ?」
にっと伏見は笑った。
「のった」
数分後、伏見が声をあげた。
「できた、できたで、おっさん。自販機行こうぜ。紙パックじゃなくてペットボトルな。コーラ、コーラ、コーラがいい」
興奮する伏見をなだめるように小川は言う。
「まぁ待て。で、正解は?」
「な、つ、や、す……」
そのとき、破裂音が轟いた。
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