証明が雑すぎる

「お前の考えていることくらいわかる」

「ほな、言うてみ」

 突然、小川は関西弁になった。本物の関西人の怒りを買いかねないイントネーションだ。

「犯罪をして警察に捕まれば、エアコンのある場所で過ごせるとか言いたいんだろ」

 正解、とでもいうように小川は親指を立てた。伏見の口からため息が漏れる。

「アホか。刑務所にエアコンがなかったらどうなるんだ」

「そういう問題じゃない気はするけどな」

 もっともな指摘に慌てたように伏見は言う。

「もともとはお前が言い出したことだぞ」

「でもな、刑務所はエアコン完備だろ」

 そうかな、と伏見は首を傾げる。

「刑務所にいるのは犯罪者だけじゃない。刑務官だか警備員だかがいるだろ。看守というやつが。役人がいる以上、そこには快適な空間が存在する。QED」

 ずいぶんと雑な証明があったものだ。あきれながら伏見は言う。

「それは偏見だと思うけどな。それに得意になるほど独創的なアイデアじゃないし」

「そうか。天才的、悪魔的な発想じゃないか。前代未聞の動機ってやつだ」

 伏見は首を振った。

「せめて正月くらいは暖房のある場所で三食揃った生活をしたいと年末になると万引きのような軽犯罪をしたり、してもいない犯罪を自首しに来る生活困窮者がいるってニュースでやってたけどな。お前がやろうとしているのは、それの夏バージョンだろ」

 はん、と笑って小川は両手を広げた。影が教室の床に伸びる。

「一緒にするな。エアコンが欲しくてエアコンを壊す。しゃれというか皮肉がきいているじゃないか。こういうの、なんて言うんだっけ?」

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