演劇部員の特技

「どうやってって、超能力だよ」

 こともなげに伏見は口にした。隣では小川がにやけた顔でうなづいている。

「噓つくな」

 真顔になった倉坂が言う。

「どうしてそう思う? 俺は噓をつくのは一日三回まで、それに週に二回は噓をつかない日を設けると決めている。休肝日みたいなもんだ」

「きゅうかんび? あぁお酒飲まない日ね。ねぇ、そのマイルール自体がそもそも噓ってことはない?」

 心外だな、と伏見は肩をすくめた。

「なにも答えないってことは、つまりそういうことでしょ」

 違うんだけどなぁ、と伏見は首をかいた。

「まじめな話。なんで噓だと思った?」

「だって、隣で笑ってたから」

 倉坂は小川に視線を向けた。

「お、俺?」

 小川は自分の顔を指さした。

「秘密を共有している人間が、共有していない人にする顔をしてた。だから、噓だってわかる」

 ほう、と小川が口にした。

「なに、その顔。馬鹿にしてんの?」

 一歩前に進み出ると、倉坂は挑むように小川に言った。

「今、俺はどんな顔をしている?」

「質問に答えずに質問? いい度胸してるね。いいよ、やってあげる」

 倉坂は小川の表情を真似した。見事な模倣だった。

 二人の顔の造作はまったく違う。小川は極端に眉を寄せていたり、口角を上げていたりするわけでもない。

 倉坂が似せているのは、顔の筋肉のどの辺りに、どの程度、力が入っているのかなのだろう。そう伏見は分析した。

「そういう顔の人間はなにを考えているんだ?」

「なめてた相手の意外な一面に気付いて驚いている。でも、まだ自分のほうが立場は上だと余裕かましてる。つまり……」

 なにかの演出効果を狙うように倉坂は一旦、言葉を切った。

「馬鹿にしてんでしょ?」

 とんでもない、と小川は手を振った。

「いや、さすが演劇部だなと感心している。他人の顔色をよく観察している。すまなかった。超能力というのは噓だ」

「一日三回までってのは?」

「そっちは本当」

 じっと倉坂は小川を見すえた。しばらく観察した後で倉坂は言った。

「ま、信じてあげましょう。そもそも、あたし、超能力なんて都合のいいもん信じてないから」

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