原理

 伏見の表情は告げていた。

 説明してもらおうか、と。

「いくつか考えられる。簡単なことなんだ」

「ちょい待ち。いくつかってなんだよ」

 小川は人差し指を立てた。

「いち、誰かが合鍵を使って部室に入り、紙を置いた。できるだろ、俺らが演劇部室に入ることができたのと同じ原理だ」

「可能性は認める。でも、そういくつも合鍵が捨てられているわけがない。偶然がすぎる」

「そうか? むしろ、必然な気がするが」

 伏見はわけがわからない、という顔だ。

「演劇部か弁論部、どちらが先かはわからないから、ここは仮に演劇部としよう。まず演劇部の誰かさんが合鍵をつくった。それを見た弁論部のなにがしがこれは便利だ、いちいち鍵を借りなくても済むと真似をした。卒業するとき、合鍵の処分に困り、演劇部も弁論部も廊下の掃除用具入れに捨てた」

「待てよ。捨てる必要はないだろ。便利なんだから、後輩に引き継がせればいい」

「そうしたんだろう、しばらくは。でも、ばれそうになった。で、処分した」

 筋は通っているだろう、と小川は両手を広げた。伏見は納得いっていない様子だ。

「待てよ、おっさん」

「なんだよ、ふっさん」

「捨てるならちゃんと捨てろよ。なんで部室棟の廊下にある掃除用具入れなんてところに。中途半端というか、そんなとこにあったら使おうと思えば使えちまうじゃ……」

 あ、と伏見は口の前に手を運んだ。

「そうだよ。いつでも使えるようにするために、掃除用具入れなんだ」

 暑いな、と伏見は窓に近づく。

「なるほど。合鍵があればいいというのはわかった。でも、おっさん、その紙が突如出現した理由はいくつか考えられると言ったよな。合鍵以外になにがある?」

 小川は指を二本立てる。

「に、その窓だ」

「そうか、ドアには鍵をかけて職員室に行ったが、窓は開けっ放しだった。出入りは可能だ、と言いたいところだがそれはないぜ、おっさん」

「なんでだ?」

 伏見は手招きをした。小川が来たところで言う。

「見ろ、窓のへりを。雨ざらしになって、砂埃がへばりついている。誰かがここから出入りしたならば、汚れが落ちている箇所があるはずだ。でも、そんなものは……」

「ないね」と小川は笑った。

「まだ説明はあるか?」

「さん、この部屋には俺たち二人以外の誰かがいて、そいつが紙を置いた」

「誰かって誰だよ、という以前にそんなやつはいないが」

 伏見は部室を見回した。

「本当にそうかな?」

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