謎の文字列

「なんだって?」

「見えないだけで、いるかもしれん」

「幽霊か?」

 小川は首を振った。

「いや、透明人間だ」

「人間を透明化する薬が開発されたとは聞いてないが」

 言いながら伏見は手で顔の汗をふいた。

「ニュースにはならんからな」

「なるだろ、大ニュースだ。世界中がひっくり返る世紀の発明だ」

「だからこそ、ニュースにならない。大騒ぎになるからな。世界がひっくり返らないように事実は伏せられる」

「陰謀論とか好きそうだな」

 ご冗談を、と小川は手を振る。

「こんなこと言うと、陰謀論好き説を補強しちゃうかもしれないけど、この部屋には秘密のスペースや隠し通路があるのかもしれない。この高校は実はスパイの養成学校だったことがあり、その名残で……」

「人間てのは、暑くなるとろくなことを考えないんだな」

 あきれたように伏見は息を吐いた。

「だが、そうとでも考えないと、紙切れの説明がつかない」

「なにが書いてあるかで、この紙を置いたやつの素性がわかるんじゃないか。少なくとも狙いはわかる気がする」

「見てみるか」

「最初から、そうすればよかったんだよ」

 二人は窓際から弁論台に向かって歩き出す。

「なにか書いてあるな」

「あぁ、日本語だ。だが、意味がわからない」

 紙には、上手いとは言いがたい字でこうあった。


 のにりちやそかせへまもぬはねこのかねたひ

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