サイコパス
大きくうなづいて小川は言う。
「だな。もうすぐ夏休みだ。暇になったガキどもはまともなことをしないからな。猫騒動なんてのは格好の遊びになりかねない。真似をする連中が増えて警察は手を焼く。真犯人にとってはダミーが増えて好都合。嫌になるぜ」
伏見は地図を指差す。
「ひょっとして、このコインランドリーの事件は模倣犯の仕業なのかもな。だから、場所が遠い」
「可能性はある。夏休みに入れば、事態は変わるかもしれない。もし、本当にうちの生徒が犯人ならば、学校に来ないことで犯行は止まるかもしれないし、場所が移るかもしれない」
「うちの関係者じゃないことを祈るけどね」と倉坂。
「学校がないことでストレスが軽減されるなら、犯行は止まるかもしれない」
低い声で小川は言う。
「なんで?」
伏見と倉坂の声が重なる。
「犯人の望みが単に猫を始末することではなく、猫が苦しむのを見ることにあると思われるからだよ。自分より立場が弱い存在が苦しむのを見たい人間なんてのは、ストレスを抱えているに決まっている。犯人が学生ならストレスの原因が学校生活にある可能性は高い」
はい、と倉坂が手を挙げる。
「質問か、なんだ?」
「なんで猫が苦しむのを見るのが目的だと思ったんですか?」
「犯人が罠を使っていないからだ」
うー、と倉坂は手を頭にやった。
「わからないか。罠方式だと猫に毒を与えているところを直接、目撃されるリスクは減る。おまけに猫を始末する効率は上がる。犯人にとってはいいコト尽くめなんだよ、罠は」
そこまではわかる、というように倉坂はうなづいた。
「なのになぜ犯人は罠を使っていないのか。使いたくない理由があるからだな。じゃあその理由はなんだ? 一つ考えられるのは、罠にしないで直接、毒入りの餌を与えれば、食べた猫が苦しむ姿をその場で見ることができるからだ」
「わー、サイコパスの発想だよ、それ」
顔をしかめて、倉坂は両耳を手でふさぐようにする。
「正確なサイコパスの定義は知らないが、人間的な感情が欠如しているんだろ、そう言われる人たちは。真に合理的な行動や思考は情緒や感情を排除したところにある」
「情緒や感情を重んじる演劇部は退散します。というか、あなたたちが出てけって話だった」
「そうだった。じゃあな、倉坂」
伏見は手を振って、廊下を歩き出した。
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