第227話 ミス研と冒険者ギルド

 明石市立航空宇宙大学附属中学校の校門を入るとそこはタクシー乗用ドローンスカイアークの乗降場になっている。

 

 ここで言うタクシーとは少し前まで乗用ドローンと呼ばれていた乗り物である。

 先の世界大戦時に軍事用にべらぼうな数が量産されたものだが、戦争が終結して民間に払い下げられて市民の足となっている。

 明石市では学生は通学時には無料で利用することができるのでほとんどの学生はこのタクシーで登校してくるのだ。

 自宅近くの決められた乗り場から学校までわずか数分で着くため、重宝している。


 「薫子ちゃんおはよう!」


 タクシーから降りてきた学生たちが次々と薫子のところに寄ってくる。

 人当たりがよく人気があってあのルックス、薫子はクラス、いや学校のアイドルなのである。


 俺はと言うとなんというかマイペースで人に合わせることが苦手なのでびっくりするくらい人気がない。

 友達がいなわけではないのだが、友達に言わせると、なんだかバリアらしき雰囲気を醸し出しているらしく、近寄りがたいとか。


 まあ、いつもの調子で授業は始まった。


 明石市立航空宇宙大学附属中学校のカリキュラムも高校程ではないがかなり特殊な専門知識や技能にふみこんでいる。

例えば中には医学部で行う外科手術の基礎までやる学生もいるそうだ、その他のカリキュラムもとんでもなく範囲と深さがあり、とても中学生のする内容ではない。

 学校はいったい学生を「何に」するつもりなんだろう、これが6つ目のミステリーである。

 薫子などはその典型で、9歳にして物理学の博士号と総理大臣賞を授与され、現在中学生の身で大学内に独自の研究室を与えられ最先端の研究をしているようだ。

 したがって通常の授業は午前中で終わり、午後からは自分の研究室に篭るのが日課である。

 そして終わった頃に薫子を迎えに行くのが俺の日課であった。


 他の生徒も多かれ少なかれ何らかの特殊技能を持っている。

 モブオブ雑魚の俺がなぜこの学校に居られるのか、それが7つ目のミステリーである。


 授業が終わると薫子のような例を除いて全員が何らかの部活動をしなけれぼならないことになっていた。

 スポーツは嫌いではないし身体も鍛えていたのでそこそこ動けるから運動部から武道系中心に結構声がかかったのだが、俺は断って自分で部を立ち上げた。

 それが我が「ミステリー研究部(別名有閑帰宅部)」である。

 


 部員は俺と幽霊部員の薫子の二人だけだ。

 部を立ち上げるには最低2人の部員が必要だと言われたので薫子に名前だけ書いてもらった。

 と言うわけで、薫子のお迎えが俺の日課になったわけだ。


 なぜミステリー研究部なのかって?


 わからん!


 部を立ち上げる時に何か名称をつけなければならなかったのでなんとなく「ミス研」という言葉が浮かんだのでそのまま書いた。


 それだけである。


 しかし、なんちゃってミステリー研究部が本物のミステリーに挑むことになるとはその時は想像もしなかった。


 と言うわけで薫子の研究が終わるまで2時間ちょっと、ぼっちでいろいろやるわけなのだ。

 気分が乗れば野良GSI狩に出かけることもある。

 今日はどうしようかな。


 とりあえずフォーク投げのトレーニングを行う。


 なぜフォークなのか?


 これが8つ目のミステリーである、と言いたいところだが、読者のうんざり顔が頭に浮かんだのでこれは説明しておく。


 昆虫型スパイカメラGSI(グローバル・サーチャー・インセクト)は各国がしのぎを削った諜報兵器である。

 人的損失を出すことなく敵国に潜入して画像データを収集する。

 スパイカメラ付き無人機などは大昔から活躍しているが、そのマイクロ版である。


 自国のGSIを敵国にばら撒いて徘徊させ、その画像データを自国に取り込むのである。

 エネルギーは家庭用コンセントなどから勝手に充電することで、本体を破壊されるまで半永久的に敵国の画像データを送り続けるのだ。

 戦争終結と共に大半は回収されたが、野良となって街中を徘徊するGSIまでは回収しきれなかった。


 GSIは精密機械である上に自走するものであるから実は回線のショートが弱点となっている。

 したがってGSIの動きを止めるには本体にフォークのような金属を打ち込むのが一番効率的であるとわかった。

 特に銀のフォークが一番機能停止確率が高かった。

 3本に分かれている形状もGSIの足などに絡みやすく本体の的を外してもうまくいけば捕縛できるのである。

 まあ、ダーツか手裏剣みたいなものか。


 数メートルの距離であれば蒼のフォーク投げは百発百中であった。


 「ちょっと狩りにいくか。」


 もちろん多いとは言ってもそうそう見つかるものではない。

 一匹捕まえれば数万円なのだ。


 ただ、今日はツイていた。


 人気のない学校の廊下のコンセントに二本のトロリ線を差し込んでじっとしているGSIを発見した。


 俺は懐から愛用している銀のフォークを取り出して狙いを定め、投げる!


 銀のフォークは見事に命中し、内部回路がショートしたGSIは断末魔だんまつまの音を発して沈黙ちんもくした。


 「ラッキー!」


 俺は厚めのトートバッグにGSIを納めるとタクシーで市役所に向かった。


 市役所前の駐機場に降りると危機管理課に向かう。

 プロのGSIハンターたちは「冒険者ギルド」と呼んでいる。


 「こんにちは、あの、GSIを捕まえたので持ってきました。」


 「あら蒼さん!おめでとう、ギルドカードマイナンバーカードはお持ちかしら。」

 冒険者ギルド危機管理課の受付のお姉さんは俺の名前を覚えてくれている、へへん、俺は上位ランク冒険者だからな。


 俺がギルドカードマイナンバーカードとGSIを出すとGSIの型式照会をして金額を決めてくれる。


 「これはプ連のGSIね、珍しいから7万円よ、ギルドカードマイナンバーカードに紐付けされている口座にすぐに振り込まれるわ、確定申告かくていしんこくも忘れずにね。」


 冒険者ギルド危機管理課窓口の綺麗なお姉さんがにっこりと笑って送り出してくれた。

 臨時収入だ。

 

 学校に戻り、薫子を迎えに行く。


 「薫子〜時間だから帰ろうよ〜。」


 「ちょっと待って!この計算式仕上げたいから!」


 これを許してしまうと延々何十分も待たされるので負けてはいけない。


 「え〜、今日は臨時収入があったからムスドでチュロッキー奢ってあげようと思ったんだけどなー」


 世界的な食糧危機で小麦や油の価格が10倍以上に跳ね上がったため、最近はチュロス一個が4000円ほどする。

 公務員の家庭ではなかなかありつけない高級菓子となっている。



 「え!チュロッキー!いくいく!すぐ帰る!」


 薫子はその辺のものをそのまま放り出して子犬のように走ってきた。


 俺たち西明石駅下のムスドでチュロッキーを堪能たんのうしたのであった。

 

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