第231話 もう一人のミス研部員

 その日のミス研の部活は頭を抱えるだけで終わった。


 いつもの日課である薫子のお迎えに行く。


 「薫子〜時間だよ、迎えにきたよ〜。」


 「ちょっと待って!この光電融合型光送受信モジュールチップ組み込んじゃうから。」


 今日の俺は薫子には勝てなかった。

 それから1時間ほど作業を横から見ていた。

 「あおいー!遅くなってごめんね。」


 「うん、いいよ。」


 「珍しいね、催促しないの?熱でもあるんとちゃうの?」


 そう言って薫子は俺のおでこに触る。


 「熱はないよ、ちょっと昨日徹夜しちゃって。」


 「またエッチな動画でも見てたんでしょ、やらしい。」


 「ち、違うよ!」


 俺は真っ赤になってムキになって否定した、本当に見てないし。


 薫子はじいちゃんの小部屋のことは知っている、小学生の時に薫子も誘って潜ったからだ、この際、薫子には話しておこうと思った。


 ****


 「なるほどね、殺人事件ね、そしたら今から行こっか。」


 「どこへ?」


 「おじいさんのモニタリングルーム。」


 時間が遅れてトロバスには乗れなかったので二人で無料のスカイアークタクシーに乗る。


 5分ほどで漁師小屋に到着し、地下に潜った。

 狭い地下室で薫子と二人っきり。


 小学校の時はなんとも思わなかったけど、今はなぜかドギマギする。


 薫子はモニタリングシステムのキーボードをカタカタ打ち始めた。

 「あ、え、触ったらまずいかも、じいちゃんには内緒なんだ。」


 「前来た時も散々に触ったじゃない、ログは消しておくから大丈夫。」


 なんか薫子頼もしい。


 二、三分で昨日の場面が出てきた、これは録画されているようだ。


 「ねえ見て。」


 俺は薫子が指差したカウンターを見る。


 「ここに2037年7月6日23時41分とあるでしょ?これって1年くらい前の画像だよ、GSIは日本製、映ってるのは顔はわからないけど言葉はタガログ語みたいね。」


 薫子はあっさり謎解きしてしまった。


 「つまり蒼が見た時にはなんらかの理由で何者かがここで録画を再生していた、殺人事件は昨日は起こってない、これは私たちが入学する前の話ってわけ。」


 「それで死体もなければニュースにもなってないのか。」


 俺は少しだけ安心した。

 でも少なくとも昨年に殺人事件が学校の廊下であったのだ。

 ニュースになったかどうかはわからない、当時はそういうニュースには興味もなかったからだ。

 

 それにしても薫子はすごい。

 中学生にして自分の研究室を与えられて予算ももらっているだけのことはある。


 「もう遅いわ、お母さんたちも心配するから早く帰ろ。」


 薫子に急かされて俺たちは地下室から出た。


 薫子の家まで送って俺も近所の自宅に帰る。


 10個目のミステリーはあっさり薫子が解決してしまった。


 しかし、校内の殺人事件、そして。


 こちらのほうが問題なのだが俺が入る前に地下室に入った人間がいる。

 じいちゃんが帰ってきた様子もない。


 こちらが新たな10個目のミステリーと11個目のミステリーとなった。


 とにかく我が明石市立航空宇宙大学附属中学校にはミステリーが多いのだ。


 でも我がミス研もミス研らしい活動ができたじゃないか。


 部長の俺は役立たずだったが薫子も幽霊部員とはいえ立派なメンバーの一人だ。

 活動実績ということにしておこう。


 とりあえず一安心した俺たちであったが、我がミス研に12個目のミステリーが忍び寄っていることを俺も薫子もまだ知らない。

 

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