第232話 〈side 陽葵(ひな)〉

 陽葵が次元の裂け目に転落してエウロパに飛ばされ、無事に地球、明石に戻ってから数週間が経過していた。


 もともと陽葵は薫子と蒼と一緒に小学生時代をすごした。


 ただ、中学校からは政治家の子弟や大企業の社長の娘といった綺羅星たちが通う私立習学院大学附属の中学校に進むこととなり、薫子や蒼とは別れてしまっていた。


 もちろん習学院中学校でも友達はできてそれなりに楽しくやっていた。

 神崎重工社長の娘、神崎陽葵(ひまり)という友達ができたことはベテラン読者の方ならご存知だろう。


 そこに例の事件が起きてしまう。

 中学校に通い出してそんなに日にちも経過しないうちに原因不明ながら、小規模ビッグバンの影響と推測される現象により木星の惑星、エウロパに存在する亜人文明社会に転移してしまったのだ。


 その後、夏休みが終わる頃になんとか地球に戻ることができた。


 ただ、世間はその事実について懐疑的であった。


 実際に体験した人間は複数存在するのだが、地球外文明の証拠は金属の方舟一つであり、それはいまアメリカに行っている。


 エウロパで撮った写真などもあるにはあるが、令和22年の現在、この程度の写真を作成することなど造作もないことである。


 要はという事実があるに過ぎないのである。


 政府も隠すつもりはなかったが、発表するには証拠が足りなすぎた、よってざわつきはしたものの状態に落ち着いていた。


 川嵜陽葵ひなが神崎陽葵ひまりにエウロパから送信したフェンリルの写真が話題性もあってミンスタでバズって100万いいねを獲得してしまい、とミステリー小説さながらの大騒ぎになってしまったのである。


 関係者各位の話し合いの結果、習学院中学校から薫子と蒼のいる明石市立航空宇宙大学附属中学校へと編入することになる。


 こうして薫子、陽葵、蒼の明石っ子トリオが数ヶ月の時を経て復活することになったのである。


 ****


 ある日の朝。


 薫子と蒼がいつものようにトロバスから降りて中学校の校門に入ると続いて見覚えのあるリムジンが静かに校内に滑り込んでくる。


 セバスさんがドアを開けると中から黒髪の少女が降りてくる。


 「陽葵ちゃーん!久しぶり!」


 いつものように薫子がリムジンに突進して陽葵に抱きつこうとする。

 いつもの陽葵なら固まったまま薫子のタックルを受けるのだが、今回は様子が違った。


 新生陽葵は薫子のタックルを華麗にかわし、薫子の手を捕まえてぐるりと回転してダンスの一場面のように薫子をリードする。


 蒼は目を疑った。


 小学生の時のそこそこ可愛いぽっちゃり陽葵の面影はもうない。


 巨乳はそのままだが、引き締まったスレンダーボディに自信に満ち溢れた表情、まるで天使が降臨したかのような景色、蒼の好みのどストライクに決まってしまった。


 「薫子さんご機嫌よう、相変わらずね、蒼くん、お久しぶり。」


 「あ、ああ、陽葵さんも大変だったと聞いたよ、元気そうです何よりだよ、それにすごく綺麗になった。」


 蒼は陽葵と目を合わせることができずにいた。

 「まあ、蒼くんがそんな言葉を言うようになったのね、よ。」

  

 少しズレた意味不明な返事をするところはそこそこ令嬢の名残だろうか。

 

 「ではお嬢様、職員室に手続きに参りましょうか。」


 「そうね、薫子ちゃん、蒼くん、あとで教室でね。」

 

 こうして陽葵が戻ってきた。

 楽しい学園生活になりそうだ。

 蒼は少しワクワクしてきた。



 

 


 

 

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