第266話 別班とS機関と西郷隆盛

 「なんだって??、あさひさんが拘束された?」


 俺の元に信じがたい知らせが届いたのは二学期が始まって間も無くのことであった。


 そもそも俺たちは自衛軍の下部組織に所属している。警察でもおいそれと俺たちを拘束するのでなどできない。ここは陸斗さんに連絡を取るべきか。


 目で合図をするとエマさんはすでに陸斗さんのスマホに発信中であった。


 放課後、陸斗さんがミス研に顔を出してくれた。少しの間の後陸斗さんが重い口を開く。

 「実は日本国自衛軍には前身の自衛隊から引き継がれた『別班』と呼ばれる極秘の独立諜報部隊があるんだ。防衛省の指揮権が及ばないという厄介で特殊極まりない組織なんだ。」


 「陸斗さん、僕たちの属する組織も確かそのようなものだと聞きましたが。」


 「そうだ、我々の組織は通称『S機関』と呼ばれるものだ。」


 陸斗さんは説明を始めた。


 「君たちは西郷隆盛と言う名を知っているかね。」


 「はい、幕末から明治にかけての偉人で、西南戦争を起こした人物ですね。そして仲間とともに鹿児島で最期を遂げたと。」


 「実はS機関のSとは西郷先生のSなんだ。」


 俺たちミス研のメンバーはしばらく絶句を余儀なくされた。


 理解が到底追いつかなかったからだ。


 「ちょ、ちょっと待ってください。それはどう言うことですか?」


 俺はやっとの思いで声にし、疑問をぶつけた。陸斗さんは続ける。


 「西郷隆盛は西南戦争で死んだことになっているが桐野利秋や篠原国幹、別府晋介、村田新八そして辺見十郎太、永山弥一郎と野村忍介などの部下が西郷とともに揃って『死んだこと』にして逃げ延びていたんだ。」


 俺たちはあまりの奇想天外な話に唖然としていた。


 「これはあまり知られていないことだが、西南戦争には現在に続く当時の警視庁からも多く参戦していた、その隊士に扮してS機関メンバーは東京に戻っている。これが我々S機関の始まりなんだ。」


 俺は一つの疑問をぶつける。


 「でも西郷隆盛みたいな有名人、誰でも顔を知ってますよね、東京に戻ったらすぐに噂になるのではありませんか?」

 俺は教科書や上野の西郷隆盛の銅像を思い浮かべながら陸斗さんに尋ねた。


 「教科書や銅像の顔、あれは本物の西郷隆盛とは似ても似つかないものなんだよ。」


 陸斗さんはサラリと信じがたいことを喋ってのけた、そして続ける。


 「唯一の写真は市ヶ谷のS機関本部に厳重に保管されているんだが、そうだな、昔の俳優で言えば鈴木亮平似の顔立ちだろうか、当時の西郷隆盛は自分の体重や体型を自由に太らせたり絞ったりできたそうだ、まさに鉄の精神力を持った人物と言えるな。西郷隆盛の写真が世の中に一枚も残ってないというのはわりと有名な話だが、そう言う事情からなんだ。あれなら東京を素顔で歩いても政府の上層部の一握りの人間以外には誰も気がつくまい。」

 ミス研一同は文字通り空いた口が塞がらなかったのであった。

 

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明石市立航空宇宙大学附属中学校ミステリー研究部(有閑帰宅部) 七星剣 蓮 @dai-tremdmaster

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