第236話 学長襲撃事件

 結局、陽葵ひなさんはその後数日中学校に来ることはなかった。


 薫子は連絡を取っているようで事情は知っているのだろう。しかしそれを薫子に聞くのもしゃくだし、陽葵さんと連絡先を交換するなど、モブオブ雑魚ザコの僕には恐れ多いことである。


 それまでのウキウキ気分は数日でどんよりウエザーになってしまった。


 転校生の2人はすっかりクラスに馴染んで薫子の取り巻きに仲間入りしている。

 モブオブ雑魚の僕は離れたところから女子トークに聴き耳を立てているいやらしい男である。

 あくまでね。


 そこまで気になるなら薫子をに話の輪に加わればいいのだが、その勇気がない上にカッコつけてしまう典型的な中一男子なのである。ショボ!


 

 ただ、転校生はこれもミステリー認定してもいいほどのセレブだ。

 聞き耳を立てると、陽葵さんと同じ私立中学校の同級生で、日本の代表企業とも言える重工業、陽葵さんの川嵜重工業と双璧をなす神崎重工業、その社長令嬢だという。


 殉職じゅんしょくした父から生前に聞いた話だと中亜やプ連に対抗して現在建造中の全長263メートル、推進にスクリューを使わない「やまと」型潜水艦を交互に造っている二大重工業である。


 モブオブ雑魚の僕にとっては高嶺の双璧そうへきの花もいいところである。

 

 もう一人の転校生は11歳で中学に飛び級した山王さんのうあさひさん。

 どこかの国の貴族令嬢きぞくれいじょうだと聞こえた。

 年下の天才貴族令嬢。

 とてもじゃないが対等に話せる自信がない。

 顔立ちは日本人離れしているが、名前が日本語なので日本生まれなんだろう。

 薫子もそうだし、今では外国人も珍しくはない。


 そんな中、突然事件は起こった。


 年に何度か学長は中学校に視察に訪れる。


 特に、神崎陽葵と山王あさひという異例とも言える転校生がやってきたのでこの時期に視察に訪れたのだ。


 実はこの学校名はフランスの軍隊の名称、航空宇宙軍にちなんで命名されている。

 日本の防衛省とも深い関わりがあるのだ。


 その関係もあって学長は大臣に準じる警備がついている。


 そう、学長の両横に並んで歩く背広姿に黒いカバンを下げた目つきの鋭いSPである。


 その学長が中学校を出ようとした時に暴走トラックが校門をへしおり、後続の車からから数名の暴漢が学長に襲いかかったのである。


 まだ校庭には中学校の生徒たちが多数残っている。


 暴漢たちは学長に向かって拳銃を発砲する。


 SPたちは黒いカバンを展開して盾とする。


 黒いカバンには鉄板が二枚入っており、取っ手を片方離すと展開して盾となる。

盾は銃弾の一部を弾いたがSPの肩にも命中する。


 このままでは学長もそうだが他の生徒が危ない!


 そう直感した蒼は身体が勝手に動いていた。


 蒼は自衛官だった父から格闘術を叩き込まれている。

 拳銃を持つ相手にはジグザグに走り、懐に飛び込むことも身体が覚えている。

 ここは俺がやらなければ!と思っていた。


 


 思っていたのだが、



 蒼が駆け寄る前に暴漢たちは周囲の生徒によって全員制圧されていた。


 エマ・藤原は海斗と空斗のサポートで暴漢の一人を薙ぎ倒して顔面に正拳をめり込ませていた。


 他の生徒たちもそれぞれ得意分野を活かして暴漢を叩きのめしている。


 モブオブ雑魚の蒼の出る幕はなかった、、、


 程なくして警察車両と明石市立航空宇宙大学附属病院の名前と「ヘビと杖」のマークの入った救急車が到着する。

 

 「怪我した人はいませんか?」


 白衣を着た小柄な女性が降りてきて尋ねる。


 「彼が肩をやられました。」


 SPの一人が仲間の治療を依頼する。


 「銃創ね、貫通しているようだわ、応急処置します。」女性医師は手際良く手当てをして救急車に乗せて病院に向かわせる。」


 その白衣の小柄な女性、女性?、少女?が、医療バッグを閉じると薫子が突進する。


 「陽葵ちゃーん。」


 薫子が白衣の少女に抱きつく。



 「はぃー?」


 俺は目を疑った。


 そこに白衣で立っていたのは数日前に転校してきたはずの川嵜陽葵さんだったのだ。

 


 



 


 


 

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