第235話 〈side エマ〉

 藤原エマは13歳にして内閣情報局明石支部に属するエージェントである。

 10歳にして3等陸尉、そして現在は1等陸尉となっていた。


 エマは主に年少の要警護者ようけいごしゃのボディガードを行うために京都や東京の小学校に潜入する任務が多かったのだが、今回はある事件を調べるために明石市立航空宇宙大学附属中学校に戻ってきた。

 それは昨年起きたフィリピンから来た英語教師の失踪事件しっそうじけん内偵ないていのためである。

 

 英語教師ホシュア・フローレスはフィリピンのエンデラン大学を卒業後、地元で英語教諭として働いてきたが、日本語も堪能たんのうであったためJETプログラムで中学校の教諭助手として来日してきたのだ。

 教え方も丁寧で学生たちにも人気があったのだが突然消息を絶ってしまったのだ。


 当時外国人労働者の失踪は少なからずあり、小さなニュースにはなったが時と共に忘れ去られようとしていた。


 その事件の内偵の指令が今になって内閣上層部から来たのである。

 1年も前の失踪事件を今になって追えと言うのはエマにとってミステリー以外の何物でもなかった。

 

 「今回は陸斗さんの助力は期待できないか、せめて海斗と空斗が少しでも使えたらね。」


 あの食いしん坊兄弟のことを思い出してエマはクスリと笑った。


 しかし、これと言った手がかりもなく、文字通り暗中模索あんちゅもさくの作戦であった。

 

 学校関係者が被疑者ひぎしゃである可能性も高く、教諭に協力を求めることは困難であった。


 明石の教育長と校長には内閣上層部から内々に協力依頼が来てはいたが、校長が関わっている可能性もある。

 仮にそうであればエマは命の危険に晒されることになるのだ。

 エージェントである以上そう言う危険と隣り合わせであることは理解してはいたがそう簡単に割り切れるものでもない。


 どちらにしても一人では限界がある。

 口の固い信用できる友人を幾人か確保する必要に迫られていた。


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る