第238話 ミステリー研究部 新入部員歓迎会

 その日は珍しく、部活ぶかつが終わる前に薫子と陽葵さんが部室に顔を出した。

 二人はなぜか手を繋いだつないだまま入室にゆうしつしてきた。


 「陽葵ひなサマ〜!」

 山王さんのうあさひさんが猛ダッシュして陽葵さんに抱きつく。

 美少女3人が戯れるたわむれる様子はなかなか絵になるものである。

 「ひなちゃん!」負けじと神崎陽葵(ひまり)さんが陽葵ひなさんに抱きつく。

 ここで美少女4人が団子だんごになるわけだ。


 「よっ!薫子。」


 さっき俺を完膚かんぶなきまでに制圧せいあつしたエマ・藤原さんがおずおずと薫子に歩み寄り、顔を少し赤らめて薫子に抱きつく。

 手下の海斗と空斗は姉御あねごに従う。


 見事なサル団子ならぬ美少女団子びしょうじょだんごがそこにあった。


 まるでアニメの人物相関図じんぶつそうかんずをそのまま転写てんしゃしたような光景こうけいである。


 俺がそのままスマホ撮影さつえいしたのは言うまでもない。もちろん、決してなどない。


 「薫子、部室のほうに顔を出すなんて珍しいね、いつもは僕が迎えにいくまで研究に没頭けんきゅうにぼっとうしてるのに。


 「まあね、でも新入部員がこんなに増えたなら良かったじゃない、蒼、美女に囲まれて嬉しかったでしょ?」


 俺は全力で否定しようとしたのだが、薫子に抱きついているエマ・藤原さんがすごい形相で睨んでにらんできたので完全に口封じくちふうじされてしまった。


 「うん、まるでハーレムみたいで嬉しいなあ、楽しいなあ、あはは。」


 薫子のまゆがわずかにピクリとしたのを敏感びんかん感知かんちした海斗と空斗によって俺は両側から腕をがっちり掴まれて、部室の外へ連行れんこうされてしまった。


 「部長、ハーレム発言はヤバいっすよ。」

 「部長、ハーレム発言はキモいっすよ。」


 ****


 先の世界大戦でプ連や北東ヨーロッパ諸国の大穀倉地帯だいこくそうちたいが大きな被害を受け、小麦の価格は以前の20倍以上に跳ね上がっている。

 蒼は面目躍如めんぼくやくじょのために、海斗、空斗を連れてお菓子の買い出しに出かけた。


 校庭で学生無料のタクシー(乗用ドローン、スカイアーク)を捕まえてJR明石駅にあるピオレ明石に買い物に行く。


 焼きたてピザはLサイズで一箱24000円、ドーナツ各種はそれぞれ1個3000円から5000円もする高級品である。

 小麦を使ったお菓子や食品は総じてそのくらいの価格になっていて庶民しょみんにはなかなか手が届かない。

 ミステリー研究部の活動費なので新入部員歓迎会に使うなら問題ないだろう。

 蒼はざっと10万円分の飲み物やお菓子、食べものを仕入れて部室に向かった。


 ****

 「みんなー!新入部員歓迎会の買い出し行ってきたよー。」


 山のようなお菓子と食べ物をテーブルに置くと周りから歓喜の声かんきのこえが上がった。


 「わあー!ピザ久しぶり!チュロッキーもある!部長!大好き!」


 それまで女子トークで盛り上がっていたようだが、お菓子の燃料投下ねんりょうとうかでさらに盛り上がっていった。


 蒼はこっそりと印紙の貼られた領収書を会計担当になってくれた山王あさひさんに手渡す。


 彼女は一瞬眉がピクリと動いたが。

 「部長、今回だけですよ。」

 と領収書を帳簿のチャック袋に収めてドーナツ争奪戦に参戦した。

 

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