第264話 ドールハウス、1900字拡大版

 三ノ宮センター街をブラブラしていたオレはマツウラさんから連絡をもらったのでモトコーに帰ってきた。


 「こんにちは、マツウラさん来ましたよ。」


 「しーっ!オルガちゃんが寝ておるでな、静かにこっちに来てくれ。」


 オレとマスターは隣室に。


 そこには。


 うん、部屋があった。


 まあ、ドアを入ったのだから部屋があるのは当たり前なのだが。


 部屋が展開されていた。


 オレは異世界に来たのか?

 それともここは巨人国なのか?

 相変わらず不治の病は厄介なものだ。



 そこにはがあってタンスや有機ELテレビがあり、台所やバスルームまである。

 窓際のベッドには銀髪の少女、というか女性が眠っている。


 「オルガ、オルガなのか?」


 「う、うーんおはようアオイ、なんだか楽しい夢を見たわ。」


 布団をめくり、目をこすりながら起きた女性はなんというか裸だった。二つの乳房があり人間の肌としか思えない色をしている。

 「アオイ」と呼んだのでオルガなんだろう。しかしオルガの胴体は銀色のチタン外殻がいかくのメタルボディーだったはずだ。


 半分目を背けてそむけてしまったオレは尋ねる。


 「マツウラさん、これは。」

 

 「胎内の容積を稼ぐために少し変形させたんだ、外観の違和感をなくするために全身を人工有機皮膚でコーティングした。愛玩用アンドロイドではよく使う手法さ、1/16以外は人間と遜色ないレベルに仕上げてある。鬼ツノの穴もこれでわからないだろう。」


 ありがたい、ありがたいのだが中学生のオレとしては少しだけ困ったことに耐性がないのだ。小学生の頃は薫子や陽葵さんと一緒に温泉に入ったことはある。


 しかし今のオルガは小さいけど胸もお尻もあるお姉さんに見える。気がつくと鼻から赤い液体がつーっと流れていた。


 マツウラさんは驚いた顔をしてティッシュよ箱を渡してくれた。


 鼻の穴にティッシュを詰め終わったオレを傍目はためにマツウラさんはオルガに話しかける。


 「オルガちゃん、アオイくんが困ってるから早く下着と服を着たまえ、そちらの洋服タンスに一揃い用意してある。」


 オルガはベッドから起き上がると引き出しを開けてピンクのショーツとブラをつける。 クローゼットを観音開きにすると中には無数の服やドレス、コートなども掛かっていた。オルガは一番左のドレスを着た。


 「どう?アオイ、似合うかしら。?」


 髪を結い鬼ツノもなくなりの中央で立つオルガは大きさ以外は普通の人間のお姉さんと変わらない姿であった。


 しばし見惚れていたオレであったが、はっと我にかえりマツウラさんに尋ねる。


 「この小さな部屋はどうしたんですか?」


 「いわゆるというやつさ、オレには日本全国に物作り友がいるんだが、北海道に知り合いのドールハウス作家がいてな、一式頼んだんじゃよ。もっとも昔のものと違い、今のものは精密でちゃんとそれぞれ機能もある。テレビや洗濯機まで使えるぞい。」


 オレは驚くばかりでアワアワしていた。


 オタククラフツマンマツウラが続ける。


 「オルガ本体について説明しておくぞい。まずはオルガの所有権保存登録は終わらせてある、こちらが証明書でナンバーは後で読んでくれ。左胸にリモートID発信機を、右胸に複合アンテナ受発信機を仕込んである、ここには鬼ツノからの光回線を回してある、身体が少しふくよかなのはそういうわけだ。尻の部分を少しふっくらと膨らませて全固体バッテリー容量を仕込んで増やしてあるから持ちは変わらないはずだ。

 重量は少し増えたが飛行には影響ないはずじゃ。何か質問はあるかな?」


 「オルガには自動修復機能があったのですが、それはその新機器にも適用されますが?」

 「いや、申し訳ないがそちらはオリジナル本体だけだな、大規模破損などの緊急事態には後つけのものは放棄してくれ、初期設定の身体に戻ることになるだろう。まあ本体が戻ればオプションはいつでもまた付加できる、保険もかけてあるからその時はまた来てくれ。保険修理で無料でやるからな。」


 「それとこの部屋のことですが。」


 「これは一般の愛玩用アンドロイドの標準セットじゃよ、服や下着はちゃんと女性スタイリストが選んでおるから安心してくれ。少し大きな箱だから自宅まで配達してやろう、大久保駅近だったな。」


 クラフツマンマツウラはもう店を臨時休業にしてオレたちを家まで送ってくれた。

 まあ安くはない大口とも言えるお金を払ったのだ、サービスのつもりなんだろうな。

 

 オルガはスカイアークの後部座席、オレの右にちょこんと座りエナジードリンクをちゅうちゅう吸っている。

 そんなところは変わらないのだが、少し大人びたオルガ、オレの心中と鼻血のティッシュは穏やかではなかった。

 

 


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