明石市立航空宇宙大学附属中学校ミステリー研究部(有閑帰宅部)

七星剣 蓮

第226話 蒼とミステリーだらけな仲間たち

 令和20年に終結した世界大戦から2年が経過して、明石もやっと平静を取り戻してきた。


 明石そのものにはそんなに被害はなかったが、世界的に大きな穀倉地帯こくそうちたいがいくつも失われて慢性的まんせいてきな小麦不足が深刻になっている。


 また、世界大戦の最中に世界中にばら撒かれた莫大な数ばくだいなかずの昆虫型スパイカメラGSIが終戦後も野良のらとなり彷徨ってさまよっている。

 ※グローバル・サーチャー・インセクトの略GSI

 

 野良になったGSIのカメラはフリー接続となってしまっており、GSIの視界に入ってしまうと世界中に生配信されてしまう厄介やっかいなものだ。

 本当にたまらない。


 しかも勝手に民家や発電所、変電所に入り込み自ら充電してしまうのでタチが悪い。これによる停電も頻繁ひんぱんに起きており、大阪電力と各自治体は野良GSIに懸賞金をかけ、捕獲ほかくしたものに数万円の報奨金ほうしょうきんを出していた。


 そしてわが主人公、13歳の平蒼たいらあおいはその捕獲ほかくのプロであった。


 世の中にはもちろんこの野良GSIを捕獲して収益を上げる個人や法人がいくつか存在するが、蒼は中学生でありながらその性質を理解して探し出し、子供の頃から鍛え上げた身体能力、体術とフォーク投げの独特のスキルでプロ顔負けの捕獲数を誇っていた。

 そこにも世間が知らない秘密があり、それが第一のミステリーである。


 中学校ではGSIそのものが人に危害を加えることもなく、未成年者がGSIを捕獲してはいけない法律も存在しないことから学業に影響を及ぼさないこと、修学時間外に限り捕獲活動を認めていた。

 まあ、昔の人のようにカブトムシを捕獲して販売するようなものとされていて稼ぐことも黙認されていた、もちろん親権者の承諾と確定申告は行っている。


 蒼の父は海上自衛軍二等海佐であり、世界大戦で乗艦荒波が撃沈され殉職していた。

 蒼の母は同じく海上自衛軍で潜水艦のソナー員をしている。


 遺族年金ももらっているし母も働き、官舎住まいなので中学生の蒼が働く必要はないのだが、13歳の蒼はGSI狩りを続け、稼ぎ続ける。


 これが第二のミステリーである。


 蒼は小さな頃から父のようになりたくて身体を鍛えていた。

 しかし、父が殉職じゅんしょくしてからは海上自衛軍に入りたいとは言わなくなった。

 トレーニングは欠かさず続けていたのだが。


 中学生になった蒼は大きな目標をなくして、自分が何をしたいのか、何をすべきかもうわからなくなっていた。

 ただ、何となく毎日を過ごしている。


 ただ、そんな彼にも一つだけ楽しみにしているものがある。


 中学生になってから通学に使うようになった「トロリーバス」である。


 大阪電力が最後のトロリーバスを運行中止にした後、川嵜車輌に里帰りした。


 当時の松浦明石市長が地方の生活の足の確保と観光需要に注目してレトロを感じるトロリーバスを明石市に導入したのだ。


 ※トロリーバスとは外観は普通のバスでありタイヤで走るのであるが、電車のように二本の電線トロリー線から動力を得て決められた道路を走るものである。

 運転には国土交通省の発行する動力車操縦者運転免許証、いわゆる「電車の免許」が必要となります。


 そして外観はレトロであるが、中にはハイテク機器も装備し、少し前に実用化されたブレインアップロード技術により、脳内に直接五感データを送り、音楽や風景、草や海の香りまで楽しむことができるエンタメを搭載している、つまり乗るだけで癒されるのだ。

 蒼はこれに完全にハマっていた。


 通学のために電停でんていで待っていると向こうのほうからキラキラ輝く銀髪をなびかせて駆けてくる美しい少女が見えた。

 アニメあたりだとヒロインと言った外見である。

 あるのだが。

 

 「あおい〜!」

 爆走ばくそうしてきたその爆弾少女は蒼にタックルを喰らわし、頭をがっちりロックしてこめかみをグリグリしてくる。

 この謎行動が第三のミステリーである。


 普段鍛えてなければタックルに跳ね飛ばされて後方に三回転半してブヒャ!と言ったことだろう。


 外観がいかん騙されてだまされてはいけない。

 コイツは薫子、幼稚舎、いや、産まれた時からの幼馴染おさななじみというか完全無欠かんぜんむけつ腐れ縁くされえんである。

 

 同じ病院でに産まれたので母親同士も仲良しで双方公務員なので官舎も近く、これ以上はないと言うくらい完璧でガチの筋金入りの幼馴染である。

 ここまで完璧な幼馴染だと小説やアニメあたりだと作者のご都合主義に苦情の書き込みができるのだろうが、これは小説でもアニメでもないので苦情を書き込むところがない。

 何と言うことだ。


 「おはよ、今日もトロバス日和だね。」


 「今日でしょ、蒼〜。」


 右手で長い銀髪をかきあげる姿に一瞬ドキッとさせられるが、騙されてはいけない!

 コイツは性格が悪いのだ。


 トロバスの点検が終わり、乗り込んで左側の一番前に座ろうとしたんだが、薫子に押し除けられて席を奪われた。


 「ここはワタシの指定席だからねー。」


 仕方ないので俺は一つ後ろに座る。

 薫子の細いうなじにドキドキしながらいつか指定席を奪い返そうと野心を抱いていた。

 普段、気が抜けたように生きている俺が少し生きてる感を感じる時間であった。


 頭の中には美しい風景や軽快な音楽、潮の香りが流れ込んできて俺は心が落ち着く。


 とかおり吹き込んでくる微風そよかぜに薫子の髪がなびいて俺の顔にあたる。

 ほのかにいい匂いもする。


 ので薫子に気が付かれないように銀の糸を捕まえて遊んでやる。

 ささやかな仕返しである。

 

 外には真っ赤に塗られた大きなタコのオブジェが見えてくる。


 タコのオブジェ、これは第四のミステリーと言えなくもない。

 これも松浦市長が北陸のどこかのイカの巨大オブジェと「イカの駅」の成功を真似して旧魚の棚に設置して「タコの駅」を作ったのだ、当初は税金の無駄遣いと言われたが、これはコスパが良く世界中から観光客を呼び込む目玉の一つともなっている。


 今日も記念撮影している外人さんが群れているようだ。


 トロバスはまもなく明石市市立航空宇宙大学附属中学校に到着である。

 この明石市立航空宇宙大学、実は普通の大学ではない、国家規模の謎を含有したまさにである。

 その謎はおいおいと明らかになるだろう。


 さあ、上質のミステリー学園生活の始まりだ。

 

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