第245話 モブオブ雑魚デス

 あれから俺は特に何の成果もあげられず無為むいな日々を過ごしていた。

 幸い女子中学生変死のニュースも流れずオーバードーズのあの子は今のところ無事なようだ。

 顔だけははっきり記憶に焼き付いている。

 街で見かけることがあったら追跡ついせきして家を調べることにするか、もちろんこれはまっとうな捜査そうさであってストーカーではない。

 現にあの下着姿にドギマギするどころか少し吐き気も感じる、薬品乱用やくぶつらんようはとてもじゃないが理解が及ばない。


 そういうわけでしばらくの間は一人でまたモニターを眺め、GSIの位置が掴めつかめたら急行して狩る。

 そんなことをしていた。

 もちろんまた何か情報を得ることができるかもしれないしね。


 ミス研のLINE Worksには他のメンバーからの情報が集約しゅうやくされてくる。

 どうやら少し共通点が浮かび上がってきたようだ。

 それは昨年失踪した外国人英語教諭が学校に無断で営業していた英語塾。

 全員ではないが、何人かはそこの生徒であった。

 

 もちろん警察も捜査線上に浮かんだ重要参考人じゅうようさんこうにんではあるが、本人が失踪していて事実確認が取れない上に、関係のない中学生にも風邪薬のオーバードーズが広がっている。

 容疑者とするにはまだ証拠不足であり捜査は行き詰まっていた。


 そこでスキマを埋めるための中学生捜査員が必要なのだ。


 と、部長らしく解説してみたが、俺は今のところ何の役にも立っておらず全くもってモブオブ雑魚の名に恥じない活躍?をしていた。


 それから2日後のことだった。


 いつものモニターの一番右の下から二番目。

 そこに見覚えのある小屋が映っていて、しかも近づいている。


 そう!いま俺がいる漁師小屋だ。

 「オイオイマジかよ!ラッキーすぎるぜ。」


 周りに誰もいないのに独り言を言い、今度のは何万円になるだろう?などと文字通り「取らぬ狸の皮算用」をしていた。


 すぐに飛び出して捕まえようかと思ったが漁師小屋の外は追い込める場所もない。

 銀のフォークを命中させる自信はあったが、後ろは海である。

 普通の安いステンレスのフォークではなくそこそこ値の張る銀のフォークなので万一外して海に落としたらしばらく立ち直れない。


 このメンタルはモブオブ雑魚の面目躍如めんもくやくじょである。


 だが、モニター画面は俺のいる小屋に確実に近づいてきていた。

 もしかしたら小屋の中のコンセントを目指しているのかもしれない。


 もし小屋の中に入ってくれば撃ち漏らすこともない。


 俺は静かに待ち伏せすることにした。


 そっと地下室を出て入り口の見える場所に隠れる。


 よし、いいぞ、どうやら小屋の中を目指しているのは間違いなさそうだ、小屋の壁の窪みくぼみにコンセントがある、そこにトロリー線を差し込んだ時を狙うことにする。


 GSIがゆっくりと小屋の中に入ってくる。


 外が眩しくてその時はよく見えなかったが、小屋に入った瞬間。




 俺はその「異形いぎょう」のGSIを見て驚愕きょうがくした。


 「薫子⁇」


 それは8本足の大蜘蛛おおぐものような姿に人間の顔が乗っている、いや、よく見ると8本足のうち4本は人間の手足にも見える。

 生身の人間のようなボディが毒蜘蛛どくぐもに取り込まれたような、少し吐き気を催すような形態けいたいなのだ。


 なぜか顔は銀髪で薫子に少し似ている。

 はずもないのだが。


 ただ、その額の真ん中からは鬼のような一本角が生えている。


 俺が声を出してしまったことで「異形いぎょう」に気づかれた!


 次の瞬間すごい速度で俺に襲いかかってきたのだ。

 GSIが人を襲うなど聞いたこともない。


 俺の顔は恐怖に歪んでゆがんでいたかもしれない。


 もちろん手にした銀のフォークを投げる、つもりであったのだが、その目標物もくひょうぶつの顔が薫子に似ていたことで一瞬ひるんでしまい異形に投げつけるタイミングが遅れてしまった。


 投げた銀のフォークは空を切り、異形は俺の腕に噛みついた。


 激痛とともに何かが血管に流し込まれる。

 

 モゾモゾ動くような感覚とともに後頭部をハンマーで殴られたような頭痛がして俺は昏倒こんとうしてしまった。

 


 

 

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