第260話 モビィディック

 俺がホールドアップのカニ歩きから次の動きに移ろうとした瞬間、銃を握った7人の男女はすでに全員床に転がっていた。


 「銃刀法違反の現行犯により全員逮捕します。」


 大声を上げたのはエマ・藤原さんだった。


 エマさんは一瞬で3人の男女を床に薙ぎ倒し、空斗海斗兄弟もそれぞれ二人ずつの男を制圧している。

 陽菜さんは全員の後ろ手に素早く手錠を施す。

 あさひさんは一般乗客の誘導と事情説明をテキパキと行っていた。


 俺一人、間抜けなホールドアップかに歩きのまま晒されることとなる。


 「部長!こちらは片付きました。」

 エマさんが報告をしてくる。


 「お、おう、ご苦労様。」

 “みんなには内緒で来たのになんでみんな居るんだ、そもそもいつから居るんだ、まさかアレも見られた?、“


 疑問は尽きないがいまはそれどころではない。


 突然、両手を下ろすのも忘れていた俺は「バキバキ」という轟音に振り返る。


 さっきの小型クルーザーが大きなカニのような化け物に挟まれている、登場は二回目だが、神崎ひまりさんの水中作業ロボットアームだろう。中の人間はクルーザーのヘリや手すりにしがみついている。


 俺はホールドアップカニ歩きのカニさんポーズで固まっていた。


 「ひまりさん!逃げて!」


 俺は海中の巨大な黒い影に気がつき大声で呼びかける。


 は静かに浮上してきた。


 黒い影は母さんの乗る潜水艦「はくげい」の3倍はあろうかという巨大さである。俺はホールドアップカニ歩きの姿勢のまま戦慄が走った。


 ひまりさんと小型クルーザーは逃げる暇もなくその黒い影のやや平坦なところで海上に持ち上げられる。


 大量の海水を蹴落としながら浮上するはかつての戦艦大和と同じサイズ、全長263メートルの「やまと」型巨大潜水艦の1号艦であったのだ。


 全長263メートル、総排水量9000トン、スクリューを使わない最新鋭やまと型巨大潜水艦隊は、6つの超電導コイル(超電導磁石)を束ねた電磁推進装置を6基搭載しており、それぞれの超電導コイルの内部には樹脂管が通されていて、その内面に取り付けられた電極により超電導コイルから磁界を発生させ、電極から電流を流すことで特殊樹脂管内部の海水に力が作用して海水はウォータージェット式に船尾から噴射されて推進力に変える仕組みである。


 これにスーパーキャピテーション技術を使った音速魚雷(先端からマイクロバブルを発生させて魚雷を覆い、抵抗を極限まで減らして海中でありながら音速で敵潜水艦に向かうという最新鋭魚雷と潜水艦発射型ハープーンを装備する。


 まさに現代のモビィディックと呼べる最新鋭先端兵器なのである。

 

 蒼も現物を見るのは初めてである。


 その「そびえたつくろがねの城」まさにその表現が相応しい旗艦の勇姿であった、


 俺は感動のあまりホールドアップカニ歩きポーズのままアワアワしていた。

 


 

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