第259話 クルーズ船ジャック

 気がつくと外国人と思しき男女7人が二人ににじり寄ってくる。

 ふうていは普通の外国人観光客のようであるが、その目のぎらつきは明らかに一般人ではない。


 「我々はそちらのお嬢さんにだけ用があるんだ、おまえはどこかに行け。」

 中の一人がたどたどしい日本語で命令してきた。


 “狙いは薫子なのか。“

 心の中でそう思った俺は薫子が13歳ながら世界的に有名な物理学者であることを思い出していた。薫子は反物質の権威である、世界中で反水素爆弾の開発競争が激化している今、薫子の頭脳を確保したい外国勢力は多いだろう。


 俺は頭の中で0.1秒で状況を整理してみる。


 船が外洋に向かっているということはおそらく船長は奴らに捕まっているのだろう、もしかしたらすでに殺害されているかもしれない。


 神戸港を出てしまっては県警水上署の管轄を外れてしまう、海上保安庁に通報すべきか。


 悪いことに今日はオルガを自宅に置いてきてしまっている、死角からの奇襲も難しそうだ。


 貸与されている制式拳銃はホルダーにある、しかし相手は7人である、こちらが拳銃を持っているとわかれば迷わず射殺してくるだろう、さすがに分がわるい。


 こんなところで襲撃されるということは普段から監視されていた可能性もある。


 もしかしたらこの間違法薬物の件で捕らえた奴の仲間の報復の可能性もある。


 これは少し情報を集めたほうがいいな。


 俺は最適解を弾き出した。


 まずは足をガクガクさせ、涙を滲ませて鼻水も少し垂らして普通のモブ中学生を装ってみる。


 「キャ、きゃのじょに彼女手を出すにゃ、」


 元モブオブ雑魚ざこの俺には簡単な演技だった。


 「Por que essa coisa está me fazendo tremer? É uma batata frita voadora.」《

なんだこいつ震えてやがるぜ、とんだ雑魚だな。》


 仲間の二人がこんなことを話している。

 “ポルトガル語だな、前回の奴らとは違う可能性が高い“


 こうして可能性の一つの可能性を排除した俺は反撃のタイミングを測る。


 その時、こちらに近づいてくる小型クルーザーに気がついた。


 “まずいな、まだ仲間がいたのか、拉致されてクルーザーに乗せられたら厄介なことになる。“


 「勇気ある少年くん、そのくらいにしておけ、こっちは少しいそいでるんでね、さあ、おとなしくあっちへ行くんだ。」


 そう言って小型の拳銃を取り出した、拳銃を見せればおとなしく逃げると思ったのだろう。


 おれは両手を上げてカニ歩きで横にすこしずつ移動した、一瞬で7人全員制圧しなければ薫子が危険に晒される、もたもたすると仲間も到着する。


 俺は決断した。

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