第250話 大久保町の拉致

 「なんですって?蒼部長と海斗空斗が消息を絶った?」


 ミス研の陰の実力者エマに実務家のあさひから報告が入る。


 「なんてことかしら、そんなに早く黒幕が動くなんて、、」


 エマはスマートペンを取り出して「陰の情報屋」に連絡を取る。


 情報屋も三人についてはこれといった情報は持っていないようだ、ただ、陸斗空斗が西明石駅の隣、大久保駅周辺で最後に目撃されたということだけはわかった。


 「三人は拉致されたのでしょうか?」


 山王あさひが心配そうに尋ねる。


 食いしん坊の海斗空斗のことはエマはよく知っていた。

 単に任務を忘れて遊び呆けている可能性が高い。


 ただ、蒼が一緒になって遊び呆けるとも思えずエマはその点が引っかかっていた。


 ****

 大久保町某所


 「Boss! Anong gagawin natin sa dalawang batang ito na nahuli natin?」


「Ang pagpapasya sa kanilang kapalaran ay aantayin ang utos ng panginoon.」


 東南アジア系の男二人が話している隣に海斗と空斗は縛られて転がされていた。

 英語なら多少はわかるのだが、ほとんど理解できない言語だった。


 二人は怪しい人物を発見したのだが、功をあせって深入りしてしまい、殴られた上に捕まってしまったのだ。


 「にいちゃん、しくじったね。」

 「ああ、やっちまったな、またエマの姉御あねごに無能呼ばわりされそうだな。」


 二人はそれなりに格闘術もできたのだが、敵の腕のほうが上であった。

 所持品は全て没収されたので救難信号も送れない。頼みの発信機も取られた、もしかしたら本物のスパイなのかもしれない。


 「そういえば70年ほど前、ここ大久保町はガンマンの街で西明石駅以西は無法地帯だったとかいう話を聞いたことがあるな。」


 「にいちゃん、それは都市伝説じゃないのか?」


 「いや、本当らしいぞ。JRがまだ国鉄だった頃、大久保駅近くでは貨物列車が襲撃にあったり、至る所でガンマンによる決闘が行われていて死人も多く出ていたそうだ。」

 「それにその頃、明石原人を見学するのを目的に明石に滞在、外遊中のコーネリアヘルモーズ大公国の王女が暴漢に襲われて6本足機械馬スレイプニルの騎士団が活躍したとか。」


 「うわ、それかっこいいな。」


 二人は自分たちの命が危ないというのに呑気に世間話などをしていた。

 ただ、なぜか俺たちは大丈夫!という根拠のない、しかし確固たる自信はあった。なぜだかわからないが。


 「なーに、いざとなったら蒼部長が、、」


 「部長が、、」


 *

 「エマの姉御あねごか陸斗兄さんが助けてくれるさ。」


 「そうだね!エマの姉御あねごと陸斗兄さんがいるね。」


 半分口に出かかったあおい部長の名前は途中消滅たちぎえ余儀よぎなくされてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る