第241話 中学生連続変死事件

 昨年、続け様つづけざまに2人の中学生が変死へんしした。


 原因は市販の咳止め薬せきどめやく、風邪薬の過剰摂取かじょうせつしゅ、オーバードーズによるものである。


 一人は一時に18錠もの錠剤じょうざいを飲み、6時間後に8錠、その日の夜に12錠を飲みそのまま心肺停止しんぱいていしの状態で発見された。

 風邪薬過剰摂取常習の疑いが持たれている。


 今一人は液状咳止め薬を一本まるままソーダに溶かして飲み、多幸感たこうかんを味わっていたものと推測すいそくされる。

 亡くなった部屋には何十本もの空き瓶が散乱していたという。

 いわゆる「コデイン中毒」である。

 市販の風邪薬にはアヘンに含まれるコデインや覚醒剤かくせいざいの原料となるエフェドリンが含まれており、用法、用量を超えたオーバードーズにより麻薬中毒と同じ影響が出る。


 これには習慣性しゅうかんせいや強い依存性いぞんせいがあり、一時的には気持ち良くなったり幸せな気分になるということだが、だんだんと大量に摂取せっしゅしなければ効かなくなり、毒薬にも等しい影響を及ぼすようたなる。

 若年時の依存性により20年以上更生にかかっている人も少なくない。

こうなると多幸性どころか地獄となる。

 そして自分一人で立ち直ることなどは困難を極める。

 そもそも自力で立ち直れるくらいのメンタルの強さを持つ人は薬物に手など出さない。

 謎なのは一般薬とはいえそれだけ大量の風邪薬の入手経緯である。


 薬局薬店では乱用を防止するために一人一本までという制約がある。


 同じ中学生が月に何度も買いにくればさすがに怪しまれてブラックリストに載る。

 数十本の瓶など一人で手に入れることなど困難を極めるのだ。

 とても何十本もの薬剤を手に入れることは中学生単独ではできないだろう。


 ここで疑うのが「大人」の関与である。


 死亡者の親は子供のオーバードーズについて何も知らなかったようだ。


 初期においては覚醒剤の効果でハツラツとしているし、中学生あたりから親の関与が徐々に希薄になっていくのが通常であるからポッカリ空いた落とし穴の狭間に気をつけなければならない。

 2人も変死者が出たということは広くオーバードーズが「感染」しつつあるとも言える。

 もちろん警察も動いているし内閣情報局ないかくじょうほうきょくも国家の安全保障上も見過ごすことはできない。

 かつてのアヘン戦争を連想させる、これは陰の戦争なのである。

 ただ、中学生の年代というのは子供と大人の狭間であり、そのクレバスも深く闇が深い。

 警察や教育関係者の大人が手を出しにくいエア・ポケットなのである。


 日本政府が蒼たちに依頼したのもその特殊な事情によるところである。

 

 さあ、明石市立航空宇宙大学附属中学校、ミステリー研究部の活躍やいかに。

 

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