第255話 オタククラフツマンマツウラ

 モトコー5丁目の中ほどに雑多に箱が積み上げられたショップがあった。


 人形用、フィギュア用とおぼしき大小の洋服やドレス、アクセサリーや下着まで揃っている、ここなら1/16サイズのオルガのドレスもあるかもしれない。


 片目に単眼レンズをはめ、伸び放題のヒゲ、皮の帽子を被った見るからに「ドワーフ」然とした小柄でコロコロした男が美少女アンドロイドを組み上げていた。


 「こんにちわ!店主さんいらっしゃいますか?」


 蒼が声をかけると男はギロリとこちらを一瞥した。


 「いらっしゃい、わしが店主のマツウラじゃ、愛玩用アンドロイドの買取かね?」

 

 肩でエナジードリンクをちゅうちゅう吸っているオルガを見てクラフツマンマツウラが店頭に出てきた。


 「いえ、この子のドレスの在庫があると聞いたので来ました、いいのがありますかね。?」


 「ほお、珍しい子じゃな、額にツノか!転スラの紫苑じゃな。なかなか渋い趣味じゃ。」

 転スラのシオンを連想するとはクラフツマンマツウラ、なかなかやり手だな。


 「紫苑なら着物かビジネススーツじゃが、、この子は可愛らしい感じじゃからドレスのほうが似合いそうじゃろ、ちょっと身体のサイズを測ってもええかの。」


 「オルガ、クラフツマンマツウラの作業机に乗ってくれ。」


 「イエス、アオイ」


 オルガはエナジードリンクを持ったままガラス羽根を展開して俺の肩から飛び立ち作業机の上にふわっと着地した。


 「なんと!自律型なのか?しかもドローンモード付きとは、こりゃまいった。羽根が展開するなら背中は大きく開いたデザインがいいかのう。」


 クラフツマンマツウラは目を輝かせてオルガを見ていた。

 いやらしい感じではなく純粋に技術屋の目だ。


 クラフツマンマツウラがオルガの身長から全身のサイズを細かく測定して画面に入力していく。

 3Dスキャナーは使わずにアナログなやり方だ、これがクラフツマンの流儀なのだろう。


 「サイズ的には1/17といったところか、1/16の既製品の服でもなんとかなるが、これだけの逸品のマスターなんだ、俺の腕と金額も聞いてきたんだろう、この子にピッタリのものを仕上げてやる、どうだ任せないか?予算は30万円あたりで納得のものを作ってやる。」


 俺は30万円の金額に一瞬考え込んだがGSI狩の報酬の蓄えもかなりある、無理しなくても払える額である、そもそも昨日のどんちゃん騒ぎの菓子代も30万円くらいだった、第一の功労者オルガに使ってもバチは当たらないだろう。


 それにオルガがいれば1000メートル以内の野良GSIは狩り放題である。

 俺は依頼することに決めた。


 「わかりましたお願いします。つきましてはこちらも一応見ていただけますか?」


 俺はポケットからスパイダーユニットを取り出してクラフツマンマツウラに見てもらった。この人なら何か意見をくれるかもしれないからだ。


 スパイダーユニットと合体したオルガを見たクラフツマンマツウラは。


 「なんだ、この子はGSIなのか?こんな形状のものは聞いたことがない。どこで買ったんだ?」


 「ここだけの話ですが、俺はGSIハンターの冒険者なのです、このオルガは野良GSIだったのを手に入れたのです。」


 「そうか、それなら正式に登録してはどうだ?大戦後の野良GSIについては回収率を上げるために国際条約で国家の所有権を放棄する国際法が制定されている。つまり野生動植物と同じ扱いで日本国の法律でも野良GSIを捕獲した場合にはその所有権を、難しい法律用語では『原始取得』したことになる、おまえさんが捕獲したならこの子の所有権はおまえさんのものだ、リモートIDを発信するようにして登録しておけば他の冒険者に間違って狩られることもない、仮に奪われたらおまえさんが所有権を根拠に返還請求もできるんだ。俺は行政書士でもある、良ければ登録も一緒にやっといてやるが。」


 俺は詳しい説明を聞き国家に取り上げられることもないことを知った。

 断る理由はなかった。


 「クラフツマンマツウラ!ありがとうございます。よろしくお願いします。」


 「ドレスと登録が仕上がったら連絡する、その時にまたこの子を連れてきてくれ、リモートIDを発信するアプリを入れてやる。」


 俺は何度も頭を下げて手付金を払いショップを後にした。


 「アオイ、楽しそうね。」


 オルガが話しかけてくる。


 「うん、オルガのドレス、素敵なのをプレゼントできそうだ、むっちゃ楽しみ、それに今日は楽しかった。」


 「そうね、ワタシも楽しかったわ、アオイと一緒だと。今日はありがとう。」


 オルガは小さな唇で俺の頬にキスをした。

 

 頬にエナジードリンクの残りがついたが拭き取る気にはならなかった。

 

 今日はなんだか特別な日だったなあ。

 俺はしみじみとそう思った。


 

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