第22話
「…………」
「何でここに……?」
お父様やフィンと共に王城へ来ると、何故か通されたのは謁見の場ではなく、温室のサロンだった。しかもテーブルの上にはお茶やお茶菓子などが用意されていて、パッと見ただけではお茶会のようだ。
……王命で呼び出された筈だけど?
それは私だけでなく、お父様やフィンも同じ気持ちらしく、フィンはあからさまに警戒心を出しているし、お父様もお茶に手をつける事すらしない。
と言っても、私だって首を捻るだけで、目の前に並ぶ全てのものが毒のように思えて手をつけようと思わない。
「待たせたな」
そう言ってきたのは、国王陛下だけではなく、王妃陛下や王太子殿下までいらっしゃった。
立ち上がり挨拶をしようとするのを、国王陛下は手で制し、そのまま席を促し自らも席へついた。
「久しぶりね、シア!元気にしていた?いつ王子妃教育には来てくれるのかしら?」
「……は?」
隣に座った王妃陛下が、馴れ馴れしく手を握り締めてきたかと思ったら、そんな事を言ってきた為、呆気に取られて変な声が出た。数か月、平民として暮らしていたから、つい素が出てしまった自分に焦りつつ、表情を引き締める。
「何を言ってるんですか!?」
慌てたかのように王太子殿下が席を立ち、王妃陛下の方へ駆け寄り、私を握り締める手をほどこうとする。
「レティシア嬢にディアスが何をしたのか理解しておいでですよね!?」
「でも、シアにだって情くらいあるでしょう?」
はぁあああ~~~~????
思いっきり素っ頓狂な叫びを出しそうになったが、今回はそれを堪えて、グッジョブ自分!なんて心の中で自画自賛した。
「長年、婚約者として一緒にいたのだもの」
「うむ。ディアスの為になる事をすべきだろう。あの伯爵令嬢では使えない」
「母上!?父上!?」
王太子殿下が慌てて声を荒げるが、正直な所、今陛下達が何を言ったのか脳内で理解出来ていない。というか、理解したくない。
「情なんてありませんが」
しまったと思った時には既に遅く、思わず漏れた声に、陛下達の空気が凍った。それと反対して、お父様はフィンからはよく言った!という視線を感じる。良いのか、それでと内心思いながらも視線を上げると、陛下達の顔は赤く、怒りからか身体が震えている。
「大丈夫です!王命からの婚約ですし……愛情どころか情すらもありませんよ……!?」
「シア……それはフォローのつもりか……?」
慌てて続けた言葉に、お父様は笑いを堪えながらそんな事を言う。確かに本音を駄々洩れにして言っただけにしかならない。フォローのつもりが、全くフォローになっていない。
「ミゼラ公爵!?」
「シア!貴女には優しさというものがないの!?」
案の定、怒らせてしまった……。しかも、矛先がお父様にいってしまったものだから、申し訳ない気持ちでお父様を見ると……。
「お言葉ですが……」
冷たい眼差しで、低い声を出すお父様が、そこに居た。
「不貞を働き、冤罪をかけたのはディアス第二王子殿下であって、こちらに非は一切ない。仮にファルス伯爵令嬢がそれなりに優秀であれば、そんな事は言ってこなかったのではないでしょうか」
一気にまくしたてるようにお父様が言い切った。思わず拍手をしたくなるところだが、流石に国王夫妻の手前、我慢する。
「学園の時からファルス伯爵令嬢はマナーが一切出来ていませんでしたし、それを選んだのはディアス第二王子殿下です。そもそも婚約者がいるのに他の女性を優先する方の元に戻れと言われましても……あんな手段ではなく正当な手段を持って婚約を白紙にすると申し出られていたら喜んでお受けしましたのに」
そう、こちらに一切非はない。他の女が良いのであれば、きちんとミゼラ公爵家との事を終わらせてからだろう。教養がない女を選んだのも、正式な手順を踏まずにあんな事をしでかしたのも、結局ディアス第二殿下の非になるだけだ。
「ふざけるな!王族に名を連ねる事が出来るのだぞ!?」
「お断りします」
怒った国王陛下がそんな事を言うものだから、思わず即答してしまった。誰も彼もが、それを喜ぶと思っているのか。少なくとも私にとっては面倒な肩書がついてくる程度にしか思わないし、それに比例して増える仕事量と過労の未来しか見えない。
「貴女がディアスの手綱を握っていなかった事も原因でしょう!?」
「それならば不敬覚悟で申し上げますが、貴方方の教育方針がおかしかっただけでしょう。そんな事までシアに求めないで頂きたい」
王妃陛下の意味不明な発言に対しては、お父様がキッパリと言い返してくれた。うん、私は思わず唖然としてしまった。もう結婚や仕事をするような年齢になるという直前まで手綱を握られないといけない王族ってどうなの?むしろ居ない方が良くないか?なんて事まで思ってしまう。
「頭を下げろと言うのか!」
「自分達の行いを悔い改めも出来ない者が何を言ってるのですか。形だけ頭を下げても無意味というもの」
どんだけプライド高いんだ、このオッサン。なんて思いながらも、お父様の邪魔はしないよう無表情で無言を貫く。その場で王妃陛下が泣き崩れ、このまま話しても埒が明かないと判断したお父様は席を立って私に手を差し伸べる。
「……国を滅ぼすつもりか……」
お父様の手を取って、立ち上がり去ろうとする私達に、国王陛下が絞り出すような声でそんな事を言い放った。
むしろ、滅びるとしたらキッカケを作ったのはお前の子どもだろう、と口を開きかけた瞬間とてつもない殺気が辺りに立ち込め、一瞬ゾクリと身体が震える。
「それは報いというものでしょう」
フィンが貫くような視線で言うも、殺気に震えあがった王妃陛下はその場で気を失い、国王陛下は項垂れて顔を上げる事すら出来ないようだった。
「では失礼する」
不敬だ何だのと騒がれる前に、お父様が退散を促した。
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