第19話

「何か増えてる!?」

「シアが拾ってくるのと、どっちが多いかな」

「勝手についてきてるのも拾ってきた方に数えないでね!?」

「てか魔物は拾ってこないでね。あれは狩るものだから」

「分かってるから!」


 密度が増えつつある施設。それは確かに私が保護してしまう魔獣にある。というか、中には付いてくる魔獣も居るのだが、それはどうも餌目当てな感じもする……あとは、保護した子に家族。

 魔物と魔獣には気を付けてね、というフィンは言う。何でも魔物は完全に獣で、本能のみで生きているから人間なんて狩られる対象らしい。一応、元ペット。見境なく拾ってくるなというのは度々注意勧告してくれるのだ。

 そして、それだけではなく……。


「これはどう作るの?猫耳のおじちゃん!」

「猫!?……いや、これはな……」

「魔獣の赤ちゃんだー!可愛い!」

「こら!遊びだけじゃなく料理も覚えなさい!」


 視線の先には、人間の子ども達が獣人達と一緒に料理をしている。中には魔獣で遊んでいる子も居るけれど、そこは店主……名前をローアンさんと言うらしいが、ローアンさんが怒っている。


「いや~すいませんな~」


 そう言って笑うローアンさんは、もう獣人や魔獣に怯えてはいない。

 あれから、色んなレシピを知ったローアンさんは村でも売ろう!調味料をもっと仕入れよう!となったは良いが、自分1人では作り切れないとなったらしく、村の子ども達を助っ人に呼んだ。子ども達にしたのは、まだそこまで獣人や魔獣に対しての先入観が薄いという事もあったそうだが、結果として、もふもふと戯れる日々になっている。

 ちなみに、売上があるので皆に食事を配るのも調味料を購入するのも問題がない。……と言っても、足りなければ両親がお金を出すから請求しろとローアンさんに言ったらしい。更に王都からこちらへ定期的に行商人を派遣するとかも……。


 頑張りどころがおかしい。そんな事を思いながらも、人間や獣人と魔獣が和やかに暮らすこの空間がとても心地良い。……密度が凄いけど。


「……森、開拓する?」

「……自然破壊は、あまりしたくないかなぁ……」


 フィンの物騒な言葉にそう返す。毎日が穏やかで自由な幸せいっぱいの日々だ。むしろ悪役令嬢で良かった、婚約破棄万歳とさえ思えていたけれど……。


「シア!大変よ!」

「すまない!力不足だった!」


 血相を変えた両親がいきなり駆け寄ってきた。走るなんて貴族にはない事だ。


「どうしたの!?」


 そこまで慌てる両親なんて今まで見た事もない。何があったのかと心配になったが、お父様の手に握られている封書を見て、私も一瞬息を呑んだ。

 手紙に押されているのは、国王の印。つまり書かれている内容は王命となる。いくら公爵と言えど逆らう事などできない。


「……王家から呼び出しの書状が届いた……」


 お父様は悔しそうに手の中にあった手紙を私に差し出した。


「療養中だからと断っていたのだが……こんな最終手段に出やがって!」

「ふふふ……もう後がないですからねぇ」


 両親から黒い微笑みが見える。あれから国王に責任追及を行ったところ、第二王子の独断だと言うばかりで逃げ続けていたらしい。それと並行して貴族たちからの信用は失墜し、その噂は王都の民にまで広がり、王家に対する不信感は募るばかりだそうだ。

 そりゃそうだろう。王命の婚約者に対して理不尽な冤罪と浮気だ。第二王子とは言え、王族が権力を笠に着て好き放題やっているようにしか見えない。

 罰として第二王子と、浮気相手、そして側近達は謹慎処分になったと伝えられたそうだが、そんな軽い処分で貴族や民達が納得するわけない。


「嫌な予感しかしない」


 私の言葉に両親とフィンは力強く頷くも、この手紙から逃れる手段なんてない事も知っている。全く面倒くさい。前世でも問答無用で受け取らなければいけない書状というものはあったが、ここまで心を億劫にさせるものとは無縁だったなぁ……なんて遠い過去に思いを馳せながら、少しだけ現実逃避をしながら出向く覚悟を決めた。




 ◇




「何で私がこんな目に合うのよ!」


 ふわふわしたピンクの髪を靡かせ、その容姿からは似合わないヒステリックな叫びをあげると共に、手近にあった花瓶を床に叩きつけた。


「落ち着いて!リディ」

「落ち着いてられるわけないでしょ!?」


 リディア・ファルス伯爵令嬢は、自分が軟禁されている現状に納得していない。むしろ、どうして軟禁なんてされなくてはいけないのかと暴れている。それを止めているのはリアレス・オスティ侯爵令息だ。

 聖職者の任についているリアレスは、前髪が少し長めの金髪おかっぱを乱しながらもリディが荒らした部屋の中を片付けている。リアレスの髪の間から除く美しい紫の瞳は、今や悲しみに染まっている。


「何なの一体!?王妃からは冷たく当たられるし。常に家庭教師をつけられるわ、挙句怒られるわ。満足に出歩けないから買い物も出来ないじゃない!」

「王子妃になるのだから、妃教育を受けないと……」

「ヒロインにそんなもの必要ないでしょ!?ゲームではそんな描写なかったわよ!幸せな結婚式で終わりよ!」

「だから、ヒロインとかゲームとか……」

「そうよ、そうだわ!私が手を抜いたからシナリオが変わったのね……」


 必死に語り掛けるリアレスを無視して、リディは自分の殻に籠ったかのように、何かをブツブツ唱え始める。軟禁されてからは、意味の分からない単語を言いながら叫ぶ事は日常茶飯事だった。


 ――もう無理だ。


 第二王子が選んだ相手。自分は第二王子の側近。そう思って頑張っていたリアレスだったが、自分の殻に籠ったリディアを放置するかのように部屋から出ると、とある部屋へ足早に向かっていった――。

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