第10話

 子ども達と、出来上がった事を喜び合う。一足先にエアロがつまみ食いのような味見をして、美味い!と言うと、子ども達も飛びついて食べた。フィンも目を大きく見開いて驚いているのか、震える手でクッキーを1つ持つと、その口へ運んで更に驚いたように目を見開いた。


「私だって料理できるんだからね!」

「……そうだね」


 私がそう言えば、どこか悲しそうな懐かしそうな瞳で、フィンはそう言った。


「じゃあ帰るなー!」

「またねー!」

「ありがとー!」

「じゃぁねー!」


 ジャムとクッキーはお土産に、と子ども達に持たせ、完全に日が沈む前にと帰って行ったが、その顔は笑顔がこぼれんばかりの表情だった。その顔に私も笑顔になり、心がほっこりする。




 ◇




 洗濯物を干していると、どこからか泣き声が聞こえた。それは聞き覚えのある声で……。


「うわぁーん!」

「シアー!」

「お前ら!待て!」

「エアロも嫌いだー!」


 まさか村の外れにあるとは言え、私達の家にまで子ども達が押しかけてきた事に驚き、一瞬止まった。エアロも焦ったように子ども達の後ろから追いかけてきてはいるが、もうここまで来て大声で泣き叫んでいるから数人の村人には気が付かれている。幸いなのは獣化している部分がなくて、見る限りは完全な人間である。


「ちょ……家の中に!」


 村だけれど人間が集まる場所だ。エアロもどこか目をキョロキョロと忙しなく動かしている。落ち着く為にも家の中に子ども達を誘導し、エアロにも早く来いと手を動かすと、急いで入ってきてくれた。


「……何が……?」


 家の中で掃除をしていたフィンも、大所帯で獣人達が村へ来た事に驚きを隠せないようだ。というか、フィンも獣人なんだけど……普通に村で暮らしているけれど……。


「どうしたの……?」


 エアロを睨みつつ泣いている子ども達を落ち着かせながら、話を聞いた。

 エアロが人間に治してもらったと言っても、それだけで人間は信用出来ないというのが獣人の意見だ。子ども達が持ってきたジャムやクッキーを、人間が作った物なんて口に出来るか!毒でも入ってるんじゃないか!と捨てられたそうだ。その時、エアロも味方をしてくれなかった事に不満を抱いているようだ。エアロ的には現在、人間と仲良くしている異端者という扱いなのだろうか。

 私の傍にフィンという獣人が居ると言っても、それも半信半疑のようで、結局うまく奴隷にされているんじゃないかとも言われているらしい。いや、さすがにそれは私も怒るよ?人間を敵視してるのは分かるけど、いくらなんでも失礼すぎない?


「まぁ、落ち着いて」


 そう言いながらフィンは子ども達とエアロの前に飲み物とケーキを置いた。


「お?何か変わった味だな。ミルクとは違うのか?」


 エアロは一口飲むとそう言った。こうやって躊躇わず飲んでもらえる事が、それほど珍しい事なんだと言われても、今1つ実感がない。

 子ども達も動物のじゃない?色も少し違う?と騒めいている。


「これは前に使った木の実で作ったのよ」


 そう言って目の前にアーモンドを出した。アクをしっかり抜いてミキサーにかけるかのようにするのだ。勿論それはフィンにやってもらった。生活魔法程度の私では、上手く調整できなかったのだ……何か悔しい。ちなみにマフィンのような物もアーモンドの搾りかすを使っている。ある意味で非常食的に使えるかなって思って作りおいてあるのだ。美容と健康にも良いし!……食べすぎ注意とも聞くけど……。


「もう大人たちに渡さない!」

「捨てる事ないのに!」

「私たちだけで食べる!」


 子ども達がそう宣言する。と言っても、親の立場からしたら取り上げたいだろうな、とも思うのだけど……。


「なら、お弁当作る?」

「お弁当?」


 私がそう言えばエアロが問いかける。隠れ里でピクニックのようなものをすれば良いのでは?なんて思ってしまった。良い匂いを漂わせて、羨ましがられるくらい思う存分食べると良い!フィンを馬鹿にされた私は少し意地悪な心を沸き上がらせた。


 必要な素材を、その場で素早く調達できる為、皆で森に移動した。まぁ、村の中ではいくら家の中に居るとは言っても、変な緊張感でそれどころじゃないというのもある。田舎ならではというか、訪ねてきた人がいきなり扉を開けるという事もあるからだ。


「適当な肉と山菜を取ってきてくれる?」


 森の中で私がそう言えば、子ども達が山菜を、エアロが肉を取ってきてくれるという。


「じゃあ俺はシアの手伝いをするね」


 フィンはそう言って、森の中で適当な広さがある場所に簡易キッチンのようなものを素早く作ってくれた。

 そう言えば、フィンの前で料理なんて初めてじゃなかったっけ。なんて思いながら少し恥ずかしくなる。いつもフィンが作ってくれる料理は美味しくて、プロに手伝ってもらう素人な気持ちだ。


「なら……野菜を切ってサラダにして……あと、卵と……」


 今日作る予定なのは、天ぷら。何でも揚げれば良いという簡単料理だ。付け合わせにするサラダ用の野菜やちょっとした材料や調味料は村からしっかり持ってきている。味付けはシンプルに塩で良いか。

 子ども達やエアロが食材を持って帰ってくると、洗って切って揚げて……を繰り返していく。手順をフィンに伝えると、驚きながらも素早く調理してくれる。1回言葉で伝えて作れるようになるなんて、流石としか言えない。


「ねぇ……シア……この料理法って……」

「え?何?」

「おいしそー!」


 フィンが何か言っているようだが、油の揚げる音でよく聞こえない。聞き返したところで、タイミング良く子ども達の声が重なった。フィンは首を振ると、また料理に戻っていく。

 何だったんだろう……何か変な事でもしたのだろうか。そんな思いを持ちつつも、私はエアロが狩ってきた鳥のようなものと卵、そして子ども達が持ってきたニンニクやショウガのようなものから、から揚げなるものまで作っているところだ。油使うなら、いっそ揚げるもの全部作ってしまえ。

 そしてピクニックと言えばサンドイッチ。なんて、個人的見解があった為、パンに野菜やから揚げを挟んだりして作ってみた。出来上がったものをお弁当のように箱へ詰め込むと、ピクニックなるものを伝授する。それを聞くと子ども達は景色が良い場所がとか、花がある場所がとか、色んな意見を出し合いながら帰って行った。

 あぁいう子ども達の笑顔は良いなぁ。

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