第9話
「フィンは!?」
そんな私に、慌てたようにエアロが言う。その質問にフィンがエアロを威圧したが……。
「フィンは友達以上だもの」
私は当たり前の言葉を返す。驚いたようにフィンがこちらを向いたが、何を驚く事があるのだろうか。
「そうね……家族のような?」
フィンは私にとって一番近い存在で、本音だけでなく、ありのままの自分をそのまま曝け出しても良いような存在なのだ。大事で大切で、かけがえのない存在。
そんな思いを込めてそう伝えれば、エアロは吹き出し。フィンはどことなく複雑そうな顔をする。
仕えている主人に家族のようなものと言われてしまえば、そうなのだろうか。それはそれでこちらとしても多少ショックを覚えてしまう。
「エアロ兄ちゃん!見つけた!」
いきなり森の中から、そんな声が聞こえた。驚いて振り返ると、フィンと年齢的には変わらないか、それより下の子が三人程居た。
「お前ら、どうしてここに!?危ないだろ!」
「エアロ兄ちゃんの言ってた人間に会って見たくて!」
一体、何を言っていたのだろうか。キラキラした瞳でこちらを見る子ども達。というか私としては、何の獣人なのか知りたくて、思わずこちらもジーっと見つめてしまっていると、フィンとエアロの溜息が聞こえた。
結局、何の獣人かは分からないまま、子ども達だけで森の入り口まで来るのは危険だろうとエアロが怒り出し、そのまま強制送還的に帰宅となった。
また会いたいな~。今度はきちんと紹介してくれるかな~。なんて思っていたら、意外と早くその日は来た。
「もう、堂々と連れてきた」
「まぁ、子ども達だけでは危ないものね」
今日は薬草だけでなく、山菜とか果物もないかな、と思って探していると、どこからか子ども達を連れたエアロが声をかけてきた。
「今日は一人なのか?」
「フィンは討伐依頼に行ってるわ。私はここから動かないようにって」
そう言って、フィンが縄でかこったサークルエリアを指さす。この縄から外のエリアには出るなという事だ。それなりに広い範囲で囲ってくれているらしいから、私としては退屈する事なく待っていられる。
「……あの縄は、そういう意味で張ってあったのか……」
「少し距離がある場所らしくて……。家でお留守番も暇だったから、採取できるものを探していたの」
あわよくば獣人の子ども達!と日々思っていた事は言わない。また溜息をつかれそうだ。それは私の心の中だけにしまっておく。
「お姉ちゃん!私はロア!」
「私はプル!」
「僕はギムだよ!」
「お前らっ!」
「ありがとう、私はシアよ」
待っていられなかったのか、子ども達は順番に自分の名前を言っていった。確かに小さい時は大人の話を聞いて待っているなんて退屈だものね。……貴族は別だけど、とつい悪態つきたくなるけど。
「この果物、美味しいよ!」
「これは酸っぱいの~!」
「これ食べられる草!」
子ども達は次々と、自分の知っている事を披露してくれる。こんなにも人間に対して警戒心がない上に、親しみを込めてくれるというのは、やはり子どもならではなのだろうか。大人になると、それなりに人間とのトラブルという経験を蓄積する事になり、経験により自身の嫌悪感を持ってしまう。
「あんま離れんなよ!見える範囲にいろよ!」
獣人にとっての見える範囲とはどんなものなのか。子ども達は、はーい!と大きな声で返事をした後、遊ぶかのように自分の知ってるものを探しに行った。シアに見せる!と言っていた事から、私の為だろう。とても嬉しくて有難い。しかし……。
「ねぇ……子ども達の栄養状態、あまり良くないのでは……?」
パサパサの髪を見て、そう思った。あれじゃ例えもふもふした獣人だったとしても、パサパサ獣人になってしまうだけだ。
エアロは、あ~……と呟いた後、肩を下げて視線をそらしてこう言った。
「食べられるものも少ないからなぁ」
狩ってきた肉や、買い出しに行けた食材としても固くなってしまったパンくらいしかないと言う。というか、固くなったパンは具のないスープに浸して食べるらしいが……それじゃ確かに育ちざかりの子ども達には辛い事だろう。
ペットに人間の食べ物を与える場合、健康を害す恐れがあるわけで、それなりに食べてもいけない物も多いのだが……。
「……フィンは平気よね」
「何がだ?」
「砂糖や塩も……あとスパイスがかかってても食べてるわね……」
「……獣人であって、完全な獣じゃないからな?」
完全な獣扱いするなと言わんばかりの瞳で、エアロは私を見てくるが、一応そこは心配な部分でもある。この世界でアレルギーという概念を聞いた事はないが、人間にもそういうものがある。というか、出てくる可能性もあるのだから。
人間と変わらず何でも食べられるのであれば……と、私は鍋の準備をする。しかし調味用は控えめにする事も大事だ。万が一という事もある。
「いっぱいとれたー!」
「これ栄養たくさん!」て、細かく切って鍋にかける。作るのはジャムだ。固いパンを柔らかくしたところで味がなければ毎日の食事もつまらない。
「すごく甘いよ!これ酸っぱい!」
子ども達が薬草や果物を抱えて帰ってきたが、量的には果物の方が多い。果物をジーっと見ているのは、食べたいからだろうか。狩りや畑仕事が出来ないのであれば、近場で果物を見つけるくらいしか、自分のおやつを確保する方法はないのだろう。
「これは……ちょっとエアロ手伝って!」
「え?」
子ども達がとってきたのは果物と薬草……その中から、アーモンドのような木の実も見つけた。
甘い果物を砂糖変わりのように、酸味の効いた果物と混ぜい。それに果物ならばビタミン等の栄養素も取りやすいし、ジャムならそれなりに保存もきく。
そして……アーモンド。茹でて、皮を剥いて、乾煎りする。本当ならばアーモンドミルクを作った後の搾りかすで良かったんだけれど、さすがに生アーモンドを一晩つけ置きしている時間もない。乾燥させたアーモンドをエアロに細かくしてもらう。
子ども達も手伝うと言うので、鍋を混ぜてもらったり、卵とアーモンドを細かくした……と言っても粗いアーモンドプードルを混ぜてもらったりした。
「何をしているんですか?」
「おかえりなさい!フィン!ちょっと待っていてね」
そろそろ出来上がるという時に、フィンが返ってきて興味深そうに覗き込んで来た。
「できたー!ジャムと小麦粉不使用のアーモンドプードルクッキー!」
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