第17話

「シアー!?」

「何てもの拾ってきてんのー!?」

「え?」


 ある日、森の中で何か珍しい食材がないかと探し回っていた所、怪我をした動物が居たから拾って帰ってきた……ら、皆この反応だ。

 美しい毛並みのもふもふが、血でベタベタになっているなんて心痛ましくて、つい連れて帰ったのだけれど……。


「……何か……?」

「それ!魔獣!」


 小首を傾げ訊ねると、一人がそう叫んで後ずさり皆がそれに倣ったかのように逃げ出す。


「魔獣……」


 と、言われても、腕の中に居る子は大人しい。怪我をしているからにしては、大人しく抱かれていて警戒心は皆無だ。思わず頭を撫でると、手に頭を摺り寄せてくる。


「……え?」

「は?」

「どういう事だ?」


 腕力に自信があるだろう屈強な男性獣人達は、その様子を見て少しずつ近寄って様子を見るも、相変わらず腕の中に居る子は大人しい。

 フィンが率先して私に近づいて、腕の中に居る子を撫でるが、フィン相手でも大人しい。


「流石!」

「シア様々だな!」

「フィン様々でもあるな!」


 そんな微笑ましい様子を見て、獣人達は笑い合う。というか、流石って言われても実感が一切ないというか……ただ、血に濡れたもふもふがね?ベタベタでね?痛ましくてね……とは、言わないでおこう……。

 そう心に決めつつも、フィンは見抜いているかのように、血を洗い流しましょうかと言って、ロア達にたらいとお湯の準備を頼んでいる。それを聞いたロア達は、薬草も必要だよねと各自用意に走って行った。うん、子ども達が出来すぎている。


 足を怪我していた魔獣は、治療が終えた後も歩くのが難しそうだった為、抱きかかえて移動させる事にした。皆が集まる食堂に連れていくと、もう伝達がされているのか、獣人達は魔獣の登場に笑顔を見せて、何を食べるのかなと色々な食材を持ってきた。

 人間に獣人、そして魔獣が一緒になってご飯を食べるなんて、幸せすぎる!と思いながらも、この国では絶対と言って良い程ありえない光景なんだよな、と心のどこかでは冷静に考える。しかし、今はこの喜びを楽しもう。


「お、野菜も食うぞ」


 そんな事を言って獣人達が次から次へと魔獣に食べる物を差し出してる。


「ねぇ、フィン。果物とかもあったかしら」


 私もその中に入りたくなって、フィンの方を振り返ると、思わず目を見開いた。

 そんな笑顔も出来るのね、と言わずにはいられない程に、とても良い笑顔で私を含めた皆を見ているのだ。嬉しそうに……そして、懐かしそうに。


「何でも食べるでしょう。魔獣は雑食だし。……というか、そもそも魔獣は害を成さないし」

「そうなの!?」

「マジで!?」


 フィンの一言に、私だけでなく獣人達まで驚いた声をあげた。そんな事、一切学んでないし、獣人達も知らなかったと肩を落とす。


「……時間の経過と共に、忘れ去られていくものはあるからね」


 そう、悲しそうに呟くフィンは、ここではないどこか遠くを見つめていた。




 ◇




 今日は村へ調味料買い出し。という事でフィンと二人で村まで出てきている。ロア達だけでなく魔獣もお留守番だ。

 ちなみに名前を付けようとしたけれど、野生に還るならと思って名付けていない。フィンはそんな事気にしないで良いとは言うし、確かに呼び名がないと面倒だとは思う。しかし何故か皆、まーくんと呼ぶので不便ではないのだ……。何て安直な。魔獣も賢いのか、それが自分を呼んでいるものだと理解をしている。


「こんにちはー!」

「おぉ、来たか」


 村にある唯一の店だからこそ、店主とは顔見知りだ。行商人を待っていると、いつになるか分からないからこそ、ある程度の物はこの店で買って店頭に並べている。そろそろ行商人が来て、何か置いて行った頃だろうというのを見計らって、足を運んだのだ。

 ハーブ系はともかく、発酵系の食材はまだ見かけていない。醤油や味噌なんてものが欲しいのだけど、まだそこまで技術が発展していないのか。スパイス系は、たまに入ってくるので、それなりに揃えばカレーが出来るかもしれないと期待を膨らませている。


「何か変わった食材ありました?」

「今回はこれかなぁ」


 変わった食材があれば行商人から購入する事を頼んでいて、今回出されたのは乾燥ワカメだった。勿論ご購入させていただきます!海の幸自体が珍しい中、乾燥した物でも良いから手に入るのは嬉しい。欲を言えば鰹節が欲しい。


「むしろ、そんな変わった物で何を作ってるんだ?」


 満面の笑みで購入を決めた私に、店主は怪訝そうな表情でそう聞いてくる。

 この世界では見ない料理でも、両親や護衛の人達は抵抗なく美味しそうに食べてくれたし……他の人はどうだろうという気持ちから、お弁当変わりに持っていたものを渡す事にした。

 手作りパンもどきに挟んだ、手作りソーセージもどき。つまりホットドックのようなものだ。ケチャップなんてないから野菜とスパイスやハーブでしっかり味付けしているし、ソーセージ自体もラップの代わりに少し香があって害のない葉を使っているのだ。


「買ったスパイスやハーブなどを使ってるんですよ」

「どれ?」


 店主も迷いなく口に運んでくれるのは嬉しい。まぁ、抵抗あるような見た目ではないからこそだとは思うけれど。店主は口を動かせば動かす程に、その目を見開いて行く。そして飲み込んだ後には、前のめりになってきた。


「これは美味い!是非売ってみないか!?そうしたらスパイスとか言うのも、もっと売れるだろうし、こちらが買えば行商人も、もっと持ってくるだろう!」

「ホントに!?」


 思わず乗った!と言いそうになったが、正直時間が難しいと言う事が念頭に過る。


「レシピを売りますので、売上のいくらかをこちらにという形で……あと……」

「なるほど、じゃあ……」


 私の頭を覗いているのか、と言いたくなる程、フィンが鮮やかにフォローを入れた。というか、二人でどんどん決められていった。

 こちらとしては、変わった食材が手に入りやすくなれば、それで良いのだが……。今日も今日とてフィンがとても優秀です。

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