第15話

「ごめんなさい」

「申し訳なかったわ」

「子ども達をありがとう」

「いえ、警戒心を持つのは当然の事ですから……」


 ハンバーグを一口運んでから、親達の動きは早かった。子ども達以上に皿の上を空にしていくのだ。これは獣の本性か!?生存競争か!?と思う程、一気になくなっていった。……小分けした皿だけは無事だった為、自分達の食べる分だけはあったけれど。

 それで一気に警戒心が解けたのか、平謝りをされるという現状。好感度が上がったのはこちらとしても有難いのだけど、ここまで謝られると少し心苦しい……。


「じゃあまた来るわねー!」


 そう言って、親達は子を連れて笑顔で帰って行った。






 また来る。その言葉は、しばらく日数を開けてから来るものだと思っていたのだけれど、あの日から毎日のように親子は昼食を食べに来ている。


「まともに飯が食える場所として認定されてるからなぁ」


 エアロが苦笑と共に吐き出した言葉は、隠れ里の食糧事情が良くない事を示している。けれど、皆、何もしないという事ではない。午前中に来ては畑仕事を学び、料理を学んでから、食べて帰るのだ。こちらはある意味で場所と知識を貸し与えるだけとなっている。

 そんな平和な日々に慣れてきた頃、エアロが叫びながら飛び込んできた。


「助けてくれ!」

「!?」


 エアロの方へ目を向けると、肩に担がれた人は大量の出血をしているのが分かる。


「こちらへ」


 素早くフィンがベッドのある部屋へ案内し、ロアにたらいとお湯、そして綺麗な布、ギムには薬草の用意を頼んでいた。……十歳様々だ……。おかしい、前世ペットの方が飼い主より優秀……。いや、それは前から分かってたけど……。


「えっ!?里の者じゃない!?」

「狩りにでも失敗したの!?」


 子どもの母親達もこちらに集まっては、顔を青くさせている。どうしたら良いのかと右往左往している中、ロアとギムがフィンに言われた物を持ってきた。


「これ、どうするの?」

「どうするんですか!?」


 ロアがお手伝いするつもりで聞いたのだろう言葉に、他の人達も身を乗り出して聞いてくる。


「獣人は自然治癒に任せっきりだからな……」


 確かに、動物であれば治るまでジッとしているものだろう。……人間も動物だけど。


「元々持ってる治癒を向上させるようなものだよ」


 そう言いながらフィンが怪我をした人の服を切り裂いて、怪我の状態を確認していく。その間に私は薬草を準備していると、皆が真剣にその様子を伺っている。親達がギムに、その草はどこから?どうやって見分けたの?なんて聞いている辺り、この知識も持って帰るつもりだろう。知識はいくらあっても無駄にはならない。

 消毒や細菌という概念があるのか分からないけれど、出来うる限り解説を加えながら手を動かしていく。


「炎症起こしてるのかな。熱がある」

「冷やすもの……」

「氷作るよ。あ、シア。感染の危険もあるから直接触らないで、助手よろしくね」


 フィンがテキパキと治療をしていく中、私は道具を渡したりという程度しかさせてもらえない。どうしよう。既に貴族令嬢ではないのに、年下の子ども従者が甘やかせてくるのですが。人としてどうよ!?なんて事を思いながらも反論せず従う。


 最後は少しだけ私の回復魔法をかけると、皆は心配そうにしながらも里へ帰って行った。

 誰も残らないあたり、それだけ信頼されているのかという嬉しさが込み上げるが……。


「看病しておくから、シアはゆっくり休んでね?」


 有無を言わさない威圧をフィンから放たれた私は、大人しく休む事にした。

 ……というか、疲れ切った私と、まだまだ動けそうなフィンから、体力的にも絶対適わない気がする。




 怪我した獣人を、またしても治療した翌日。血相を変えた家族が乗り込んできたけれど、熱も落ち着いてゆっくり眠っているのを見て、死んでいるのかと怒鳴られたが、目を覚ましたのを見て喜びに泣き崩れていた。人間に対して不安や敵意を持っていたようだけれど、そこはエアロ達が対応してくれた上に、命を救ってくれた事に対しての感謝と失礼な態度の平謝りを繰り広げられた。

 その結果……。


「こっちにも親子丼をー!」

「具だけお願いできるー!?」

「足りなくなったわ!まだお肉あったー!?」


 噂が噂を呼び、色んな獣人達が顔を出しにくるようなり、見世物状態!?という状況になった上、食べ物を強請られるというカオスを呼んだ。

 それならばもう、日付を決めて炊き出し形式を……と思ったが、思いのほか子ども達の反対が強く、今では毎日のように皆で材料調達から料理までが日課となっている。特に子育て世代の母獣人達にはかなり感謝されている辺り、人間や獣人なんて事は関係なく大変なんだなと思える。

 更には……。


「狩りに失敗してな~」

「お前、結構傷深いぞ!?」


 怪我をした人達の治療も行うようになっている。すでに獣人達の警戒心はどこへ?という感じになっていた。というか、もう私が人間である事を忘れられていませんかね?

 ……そもそも、ここに人間って私一人だったか。そんな事を思いながら、ベッドの準備を行う。

 軽い怪我ならば薬草を塗ったり回復魔法で終わりなんだけれど、酷い怪我の場合は保護というか入院のように泊まってもらったりしている。……まぁ、氷なんてそう簡単に作れないし、熱があったりするなら、すぐに冷やせる方が良い。


「いっそ、保護施設作ろうか。シアが居るのに男が泊まるとか危険だ」


 なんて、真顔で言ったフィンは、さっさと専用の建物まで作った程だ。いや、怪我人ですよ?危険とかないわ!という私の声は全力でスルーされた。


「従者が過保護です。十歳の子どもが過保護にしてくるんですが、どうしたら良いですか」

「いや、それ今更じゃね?とりあえず飯にしねぇ?」


 と、一度エアロに相談したところ、そう返されて終わった。私の相談より、ご飯!思わず睨みつけると、エアロはため息を吐きつつ真剣な顔をして言った。


「……フィンは何でも出来る。料理、治療も。シア一人で抱えるよりは良いんじゃないか?」

「むしろ私以上だと思うんだけど……」

「じゃあフィンを手伝えば良いんじゃね?」


 私が前世からやっていた事、やりたい事をフィン主導でやらせる事になると……?いや、それはそれで申し訳ないんだけど!


「……適材適所って言葉知ってるか?甘えるのも1つの手段だと思うぞ?」

「……はい……」


 私が何とも言えず、更に悩んだ事に気が付いたエアロは、真顔でそんな事を言うものだから頷く他なかった。


 今日も今日とて賑やかな施設と化していってます。

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