第14話
子ども達も、自分達の手で野菜を作る方法を学べるという事で、やりたい!ではなく、やらせて!と言ってきた。毎日の水やりや収穫は子ども達の仕事になりそうだ。魔法が使えなくても出来る事ではあるし。
調味料の類は村へ買い出しに行けばいいし、楽しい毎日になると良いなと思いながら、エアロと子ども達を見送ると新居に入る。フィンが頑張って建ててくれた家は、どこか懐かしさが溢れる木造建築で、キッチンも使いやすいようになっていたのだが……。
「え……寝室1つなの?」
「そうだよ」
4部屋もあるのに、何故か寝ようとした私についてきたフィンは、寝室が1部屋しかない事を伝えると、当たり前のように犬の姿になってベッドに潜り込んできた。
……前途多難。そんな言葉が脳裏に浮かんだけれど、フィンの温かさに何時の間にか私も熟睡していた。
◇
森で暮らすようになってから、フィンは自由気ままな獣の本性を曝け出すようになった……というのは違うか。お互いが前世から繋がりがあると分かったからか、物凄く甘えてくるようになった。と言っても、私よりしっかりしているのは変わらない。
大抵の事はフィンの魔法で何とでもなるし、相変わらず身の回りの事もしてくれるわけだが……。
「シア、あーん」
「自分で食べるって!」
「口あけて?」
「というか下ろして!?」
現在、何故かフィンの膝の上にのって、ご飯を食べさせられようとしている。夜だって勿論一緒に寝てるし、少し離れたりすると、すぐにフィンの尻尾が纏わりついてくる程だ。これがフィンの本性だったとしたら、今までどれほど寂しがらせていたのだろうと思う。しっかりしているのは仮面で、中身は十歳らしい少年だったのだろうか。
しかし、流石に慣れないというか恥ずかしさはある。前世でも今世でも、こんなベタベタな生活をした事なんてない。否、動物相手にはベタベタだったけれど……フィンは獣人だ。人間の姿だ。
「早く食べないと子ども達も来るし……って、フィン?」
そろそろ子ども達が畑仕事に来る時間だ。そう伝えるとピクリとフィンの身体が揺れた。ふと顔を上げてフィンを見ると、鋭い目つきで窓の外を見ている。
「……人数が多い……」
「えっ!?」
子ども達じゃないのだろうか?首を傾げつつ、様子を伺っていると、フィンが作ったインターホンに似たような物の音が聞こえた。……子ども達ならば、いつも問答無用で開けてくるのに。フィンと私の間に緊張が走り、玄関まで行くと、そっとドアを開けると……。
「エアロ……?」
「すまない」
そこにはエアロが申し訳なさそうに佇んでいた。背後には……。
「貴方が子ども達を誑かした人間?」
「ちょっと言葉悪いわよ」
各自子ども達を抱きかかえた……親だろうか?こちらを厳しい目で見ている。そりゃそうか、大事な子どもが毎日のように人間の所へ通っていると知れば心配にもなるだろう。若干、子ども達も親の威圧に怯えているように見える。
「人間なんて……っ!」
「お母さん!何でそんな事言うの!?」
「二人は優しいよ!」
「あんた等は人間の卑怯さを知らないから!」
何かしら親子で口論が始まっている。えーっと?暴言吐かれている当の人間は置いてけぼりですよ?困惑しているとエアロが助け船のように、子ども達の様子を見に来るだけだって言ってただろ!と言い出した。そして矛先はフィンにまで向かい、獣人である事まで伝えている。
胡散臭いと言った目で見てくる親たちに見せびらかすように耳と尻尾を出したフィンは、ため息をついた。
「ここは俺に任せて」
親三人とエアロに子ども達は、フィンに連れられて畑へ向かった。うん、子ども達だけでなく親も混じって、畑の作り方を覚えていけば良いわけだし。というか、今は獣人同士で居てもらった方が良いよね。
そんな事を思いながら、若干一人仲間外れ感を感じながら、今日は多めに昼食を作る必要があるなとメニューを考え現実逃避を始めた。
「料理のお手伝いにきたよー!」
「教えてー!」
食材と格闘している私のところへ、ロアとプルがやってきた。女の子だから、料理の方に興味があるのだろうか。後ろから三人の母がジッとこっちを見ている。
「変なものを入れないか見張ってます」
「向こうは獣人ですから、まだ安心」
「危険なのは人間……」
ギムの親までもこちらに来たのか……余程、人間に対しての敵対心は強いようだ。だけど、最初に会った時程の威圧感等はなく、どこか吟味されているような感じもするけれど、子ども達はそんな事全く気にせず私へと近づいてくる。
「それ細かくする?任せて!」
肉を細かく刻んでいる私に、プルがそう言って手伝ってくれた。流石獣人と思わずにはいられないほど、力強く素早く、次々に切り刻んでいく。思わず凄い!と頭を撫でていると、ロアも私だってお手伝い出来る事あるもん!次は何するの?と駆け寄ってきてくれる。
ここは……指導だけにして子ども達に作ってもらった方が親達も安心するだろうか……?
そう思った私は、子ども達に声をかけて全てやってもらう。パンを削るのも手で捏ねるのや、更に形成して焼く事まで。心配そうに見ていた親達も、子ども達だけでやり遂げていく事に表情が嬉しそうになっていく。
「戻ったよー!」
「出来たー!」
フィン達が戻ってきた声と同時に、こちらの料理も終わった。
ギムは畑仕事でした事を、ロアやプルは料理作りについて報告し合っている。親達も目で会話するように視線をお互い向けながら、子ども達を褒める。
「何かまた珍しい料理作ったな」
「ハンバーグだね」
「ハンバーグ?」
エアロが食卓の上を見て、興味を沸かせていると、フィンがそう答えた。お互い向こうの世界を知っているのだから、まぁ遠慮は要らないだろう。それを大声で言って良いのかどうかは迷うところだけれど、自分で出来る事と考えると仕方ない。貴族令嬢の知識は偏りすぎだと思う。まぁ……フィンに聞けばこちらの料理も教えてくれるだろうけれど……。
子ども達は我先にと椅子に座って、もう食べる準備をしている。親達はどうしたものかと思っているのか、視線を彷徨わせているので、子ども達と一緒に食べられるように席を促す。作る過程は見ていたし、子ども達が作ったのだから……と思いながらも、匂いを嗅いだり、ジッと眺めたりと忙しそうだ。
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