第31話
私の言葉に、二人は唇を強く噛みしめ、俯いた。二人の事情はゲームから知っている。背景事情を理解はしても起こした行動に対して納得は出来ない。ただ前世の平和な世界でゲームを楽しんでいるだけならば、そんなものなのかと思っていたけれど、今は私にとって生きてきた現実世界だ。貴族としての在り方、生き方。血筋を守り子孫を守り、それによって国を繁栄させるという考えで他家に騙され潰されない為でもある。純粋に平和な世界で生きるような素直さを真新しく思い惹かれる気持ちもあるだろう。しかし、広い視野を持ち、長い目で先を見た時に、あの判断は浅はかでしかないのだ。
年齢的には、まだ子どもと言っても良いのだろうけれど、この世界ではそんな甘い事は言って居られない。 心が弱かった。その一言で済む話だけれど、子どもと言えど、それは弱点になりうるし、それこそ取って食われる事もある。
そして……凝り固まった固定観念。この世界ならではの差別が元とはいっても、それを更に凝り固まらせてしまっては視野が狭くなるだけだ。
情け容赦なく、生きづらい貴族という肩書に対して同情はすれども、生き方や考え方を選んでいくのは自分自身に他ならない。生きるという事は、日々選択を繰り返していく事なのだから。……それこそ、まるでゲームのように……だけれど、現実にリセットは勿論、やり直しもないのだ。
「この二人は王太子に処理をさせますね」
「……わかったわ」
フィンの声に、私は素直に頷く。決定事項のように言われたけれど、それはむしろ私にとっては嬉しいものでしかない。いちいち貴族の揉め事に首を突っ込みたくないのは勿論の事、この二人は攻略対象者だ。問答無用で第二王子関連へと行きつくだろうし、国王王妃両陛下と関わるのも正直勘弁してほしい。
二人は項垂れたような恰好のまま、少しだけ首を下げて頷くような動作を見せた。今までの行動を振り返って、自分達なりに色々考えているのかもしれないが、正直なところ私達の平穏さえ乱さないのであれば好きに考えれば良いと思ってしまう私がいる。
◇
フィンが二人を王太子に任せてからは、特に変わりない日々が続いていた。あの後にどうなったのか等の連絡を王太子の方からフィンに連絡する方法が欲しいとの事で、どうやら鳥型の魔獣を伝書鳩のように扱う事にしたようだ。しかも普通の伝書鳩みたいな外見に変化させて。
「シア、公爵から手紙がきたよ」
「……嫌な予感しかしない」
どうやらそれを両親にも伝えたらしい。しかし両親的には私の手料理を食べたり、もふもふを楽しみたい欲もあり、手紙を送るよりかは直接遊びに来る事の方が多かったのだが……手紙にしたという辺り、緊急の要件にしか思えない。
「俺が先に開ける?」
「いや……大丈夫」
いっその事、このまま燃やしたい欲もあるけれど、両親が急ぎ知らせたい事といえば、この後に起こる事にたいする注意喚起だろう。もし無い事に出来るのであれば、それはこの後に起こりえる事だ。
緊張しながら手紙を開き文面を確認すると……思わずガックリと項垂れた。そんな私の様子に、首を傾げるフィンに手紙を渡すと……炭と化した。
「あ、つい……」
「いや……うん」
フィンがそういう行動に出るのも無理はないだろう。
――王妃が動く。
簡潔かつ簡単に書かれた一文からは本当に急いでいた様子が読み取れた。また第二王子との件か……それとも、聖獣であるフィンの事なのか。どちらにせよ面倒である事には変わりない。
王家の動きを察して先に知らせてくれたとしても、公爵家に手紙は届いたか、遅くてもそろそろ届く事だろう。それをこちらへ通常通り送られてくるとしても数日猶予はあるわけだが……。
「猶予があっても面倒な事には変わりない……」
溜息と共に零れた言葉。それにフィンは舌打ちで反応する。
「内容によって動き方は変わるね」
そう言ってフィンは手紙を書くと、それを魔獣に公爵家へ届けるよう伝えた。
「何て書いたの?」
「一早く向こうの動きを知れたら、こちらで考える猶予がある。通常通りに送るのはダミーの手紙で問題ないでしょう。……隠す必要はないけど、時間を稼ぐ的な意味でも」
確かに公爵家へ見張りがいると考えれば、念の為ダミー工作しても良いし、実際バレても問題ないという事か。確かに魔獣も外見がそのままであれば弓で撃ち落とされる可能性もあったからこそ変化させたのだろう。
うん、ただのんびり料理して治療してるだけの私より本当に有能だと思う。おかしいな、私は前世でも人間だった筈で、きちんと学業もしていた筈なのに……。
思わず首を傾げてしまいたくなるが、もうそこは聖獣になったからだろう、という一言で考えるのを止めた。……色々と心が折れそうで。
◇
幼い頃から何度も通った王城を前に、思いっきり溜息をつきたくなるが、身なりを整え公爵令嬢と振舞う為にグッと我慢する。……これが平民であれば問答無用で溜息つけるのかな、と思った半面、平民であればまず王城に来る事が稀だなと思ってしまった。
今回も見事、王命にて登城する事になったのだけれど、1人で来るようにとの文面まで付け加えられていた。つまり、そこにお父様や従者は連れていく事が出来ないのだ。と言っても、曲りなりにも公爵令嬢が馬車を使ったとしても1人で歩くのは可笑しい事な為、城の入り口までは護衛や従者が付き従うのは当然の事。それでも謁見は1人で行う事に対して気持ち的に重苦しさを感じる。
しかし今はそれ以上に不安な事がある……。
「では行ってきます」
「気を付けて」
側に居た従者が小声で私にそう伝えると、サッと木陰に隠れ消えて行った。それは言うまでもなくフィンだ。今回はフィンの正体がバレた事もあって、1人で来いとの指示なのだろうか、それとも専属従者として来たところに何か仕掛けられるかもしれない。色々な可能性を考えて、今回フィンは置いて来ようと思ったのだけれど、それはフィン自身が断固として拒絶した。……というか、むしろ凄く怒られた。私の従者、怒ると怖い。とても怖い……。
お互いの譲歩案として、フィンは護衛という形で紛れこんでもらう事になり、お父様もそれに賛同して今回は少人数の護衛騎士を付けてくれた上に、変わりの従者まで用意してくれた。
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