∞19【破壊力(パワー)】

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『……そっちから来んならこっちから行くぞー』


 やる気なさげに娘に話しかけた父は、自分より低所に位置するアゾロに向かってヌルリと一気に間合いを詰めてきた。

 瞬きする間に三間(約5メートル半)の彼我の間合いを潰した父は、片手で持つ木剣による『切落し』で娘の持つ長い六尺棒をブチ折った。


 とっさに、六尺棒から手を放していなければアゾロの両方の手首が折れるか外れるかしているところだった。


「……ッ!」


 とんでもない『破壊力パワー』!


速さスピード×重さウェイト×武器の硬さハードネス×距離リーチ×体軸バランス×角度アングル×意識タイミング……】

 ≒要するにとんでもない『破壊力パワー』!!



 父にブチ折られた六尺棒をその場に残しつつ、バク転からの全力ダッシュでアゾロは父から距離を取る。約六間(10メートル弱)も離れた場所でアゾロは父の方を振り返った。


 木剣の一撃でアゾロの六尺棒を折った父はその場から動いてはいなかった。木刀を肩に担いで立っている父は、呆れたような目でアゾロを見ている。


 アゾロの頬を一筋の汗が伝う。


 父と武術の手合わせをするのは随分久しぶりだ。

 アゾロとしては……今のわたしなら父が相手でも結構やれるのでは?と思っていた。

 

 とんでもない勘違いだ。


 父は辺鄙へんぴな片田舎の領主とはいえ、騎士としての実力だけで『伯爵位』を先代皇帝から賜った男なのだ。


 アゾロは改めて『騎士』としての父に感服する。



「フぅッ!」


 口から呼気を吐き、気を整えたアゾロは改めて素手で構え直した。アゾロは元々武器術よりも素手の格闘の方が得意なのだ。


 目の覚めるような斬撃を木剣で繰り出してきた父は、アゾロから少し離れた場所に立ち、肩に担いだ木剣で自分の肩を『トントン』と叩きながら娘の様子を『じーっ…』と見ている。


 父は木刀で肩を叩くリズムに合わせて、靴のつま先で草原の地面を『トントン』と叩いてさえいる。


 一見隙だらけに見えるが、明らかに誘いだろう。

 

 アゾロが家から持ってきた六尺棒は、今は大小二本の棒切れとなって父の足元に転がっている。さすがに戦闘中に落とした武器を拾わせてくれるほど、父は甘くはないだろう。


 高低差の不利はなくなったが、今度は『武器無し』でアゾロは木剣を持つ父と戦わなければならない。




…To Be Continued.

⇒Next Episode.

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