∞51【“奥義の形”と『自己満足』】

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『……じゃあ、アレだ。まず見とけ』


 そう言って、父は木剣の独闘シャドーを始めた。


 攻撃するよりも、絶えず『続ける』こと。

 斬る・突くことよりも、『すり抜ける』こと。

 生命を奪うよりも、『戦闘不能』にすること。


 そういったことを重要視する父の闘法オリジナル


 それはそれで美しい動きとも言えるし、参考にもなる。実際、エミルは瞳をキラキラさせながら、初めて見る父の武術的な動きに見入っている。


 父の動きは、肩に担いだ木剣を打ち下ろす『切落しのかた』でラストを迎える。エミルが小さな手のひらでパチパチパチ…と拍手をした。



「フぅッ!」


 久々に人前で演舞を披露し、大きく息をつく父。

 子供達に剣の形を見せるのは初めてのことだ。


 ……少しは、オレのこと見直したかな?

 と、子供達に対して淡い期待を寄せる父。


「……イヤ、そういうのじゃなくて、『最後のやつだけ』教えて!」


 なぜか呆れたような顔を父に向けるアゾロ。

 その顔には思いっきり『思ってたのと違う……』と太字で書かれていた。

 

 アゾロは重ねて父に言った。


「急に複雑で速い動きされて、最後『フぅッ!』って勝手に自己満足されても、こっち分かんない。最後の木剣打ち下ろすやつ教えて!」

 

 『自己満足』。

 30年以上にも及ぶオレの研鑽の歴史そのものとも呼べる、“奥義の形”が『自己満足』。

 と、少しショックを受ける父。


 しかし、父は内心の動揺を他者には見せない。

 それもまた、父がたどり着いた『強さ』の一つ。


 父は落ち着いた顔でアゾロに訊ねた。


「……最後のやつって、『切落し』のこと?」

「そう、それ!最初から言ってるじゃない!」


 ……そんなの一言も言われてない。

 と、思う父。

 




…To Be Continued.

⇒Next Episode.

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