∞50【『最強』なんて世の中ありふれている】

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「……オレの“バランス”のなにを見たい?」


 家の箱庭に出て木剣を肩に担ぎつつ、独特な表現でアゾロに訊ねる父。


「……先に言っとくけど、『心の問題』とか、『分かりやすい精神論』とかムリだぞオレには」


 父からしたら、思春期の『心のバランス問題』など青春の一時期にすでに克服済みな問題なので、15歳のアゾロの悩みはよく分からない。

 

 父に教えられるのは『肉体的な強さ』だけだ。

 年頃の娘が抱える心の問題なんて、父には分からないし、聞かれても応えようもない。


 しかし、ことアゾロに関しては、そんな心配は全くの無用だった。


「そんなの父に聞く訳ないでしょ!技とか強さのバランス教えて!他はいらない」


 自分が強くなる為に、父の強さを利用することしか考えていないアゾロ


 ……そんな言う?

 と、それはそれで内心寂しく思う父。


 しかし、自分にも応えられないようなことを聞かれるよりかマシか、とすぐに父は思い直した。



 実際、父は強い。

 どのくらいかと言うと、この時代のこの世界において『人類最強の一角』に数えられるくらいには。


 実際、『最強』なんて世の中ありふれている。

 と、父は考えている。

 “限定条件”によって強さの概念も変わるからだ。


 剣術最強と、素手最強はまったく違う。

 『戦場最強』とかだと、もっと違う。


 もしかすると、『罠』や『毒』の使い手が最強な場面もあるのかもしれない。

 個人としては最強でも敵集団に囲まれて負けたら意味がないから、『隠密行動』の使い手が最強な場面もあるのかもしれない。


 父にとって、最強とはその程度の概念でしかない。

 

 父は剣も使うが、家伝の忍びのわざも使うし、実戦で習い覚えた戦術も使う。


 要は、勝つ為になんでも利用する。

 それが父の強さの哲学だった。


 平和な時代に生きる自分の子供達に戦闘術や忍びの業など教えたくない父からしたら、

 『オレを見て、役に立つなら勝手に学べ』

 としか、子供達には言えない。


 

 娘同様に説明が得意ではない父は、じっ…と見つめてくるアゾロ息子エミルに向かって端的に言った。


「……じゃあ、アレだ。『まず見とけ』」




…To Be Continued.

⇒Next Episode.

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