∞24【『ただの天才やら秀才やら』なんて世の中ごまんといる】

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(……さっきより遠いし当たらない。なんで?) 


 アゾロはそう思ったが、実際は少し違っていた。

 アゾロと父との間合いが離れたわけではない。

 父の切落しの効果で退のだ。


 しかし、それに気付かないアゾロは闇雲に踏み込んで棒切れで父を打とうとする。破れかぶれのアゾロの攻撃を父は難なく避ける。いや、父が避けやすい方向にいつの間にかアゾロの攻撃が誘導されて『振らされて』いるような……。


 そう直感したアゾロは、父の剣先や複雑な手の動きを追わずに、父のからだ全体に自分の視点のフォーカスを合わせる。同時進行で、自分の体の動きも出来るだけコンパクトに鋭く動くように試みる。



 アゾロの動きの変化を見て父は心の中で独りごちた。


(……感性センスは悪くない。むしろいい……) 


 やろうと思ってすぐ出来るのは普段から考えてなんかやってる証拠だ。


(……何やってるのか知らんけど。こいつ普段から『なんかやってる』。『戦いの才能』もある……) 


 娘の動きの変化を見て父はそう思った。それは親としては誇らしいことでもある。


 しかし、父には娘に一つだけ今のうちに言っておかなくてはいけないことがあった。


「……だが、『ただの天才やら秀才やら』なんて、世の中ごまんといるんだ。天賦だけでも反復を繰り返すだけでも使いもんにはならん。もっと磨け」


 父は戦いながらアゾロに話しかけてくる。

 父は今もアゾロに対して片手のハンデを自らに課している。


「……うっさい!」


 アゾロが肩で息をしながら父に言い返した。

 両手をだらりと下げ、もはや二本の棒切れを保持するだけで精一杯だ。


 次に父の木剣の『切落し』を受けたなら、今の握力ではアゾロは自分の武器を手放してしまうだろう。


(……だったら、だったで!) 


 思い切りよくアゾロは前進する。

 両手はだらりと下げ、低い姿勢のまま地を這う蛇のように素早くアゾロは父に向かって接近する。


「……それ相手が武器持ちなら意味ないぞ」


 そう言いながら、父はアゾロの左肩を右手の木剣で打とうとする。その寸前で父の顔に向けて何かが飛んできた。


 アゾロが接近中に投げた『短い方の棒切れ』だった。

 アゾロの指先のスナップだけで『下からパス』した棒切れが、正確に父の右目を狙っている。


(……武器投げ。器用なやつだ。ていうか『』狙うんだ、父の……)


 『自分が持ってる獲物に執着しない』というのは、なかなか出来ることではない。しかし、アゾロは自分の武器が使い物にならなくなったら捨てるし、『武器投げ』も通常技として織りまぜてくる。


 アゾロはさらに長い方の棒切れを両手で持ち直し、狙いやすい位置にある『父の股間』を狙って突き込んできた。親と子の手合わせなのに『明確なダメージ』を狙ってくるヤベェ娘アゾロに対して、父は心の中でこう思った。


(……やはりいやらしい。絶対、アイツの血だ)




…To Be Continued.

⇒Next Episode.

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