∞36【泣き声と春の青空】

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「…………ウッソぉ??」


 エミルの小さな体を抱きかかえて地面に仰向けに寝っ転がったまま、アゾロは今日一番の情けない声を出した。負けたというのに、アゾロのその声の調子はむしろ清々すがすがしくさえある。


 アゾロには、まだ、自分の腕の中にいるちいさな弟に『負けた』ことが信じられない。


 アゾロの腕の中から弟エミルがもぞもぞと這い出してきて、地面に仰向けに倒れたアゾロの腹の上に馬乗りになる。そして、エミルは姉の腹の上に跨ったまま、両腕を天に突き上げ大きな声で勝利の雄叫びを上げた。

 

「うぉおおっ!!やった!!勝った勝ったぞ!お姉ちゃんに……っ!……うわぁぁああぁぁんッッ!!」


 エミルの勝利の雄叫びが、何故か途中から号泣に変わった。


 アゾロの腹の上に馬乗りになったまま姉の小さな胸に自分の顔面を押し付けて頬ずりしながら、5歳の弟エミルはむちゃくちゃに泣きじゃくる。

 何故、自分が泣いているのかはエミル自身にも分からなかった。


 アゾロの腹の上でエミルは激しく泣きじゃくっている。腹の上に跨っているエミルが泣き止まないので、アゾロは仰向けのまま立ち上がることすらできない。

 泣きながらグリグリと自分の胸にちっちゃな顔を押し付けてくる弟の柔らかな金髪を片手で撫でてやりながら、アゾロは放心したように青空を見上げた。


 そしてもう一度だけ。

 アゾロは口の中で、ウッ…ソォ…と繰り返した。



「エミル君の勝ちぃ〜!」


 おっとりとした母の場違いに明るい声と、アゾロの胸に顔をうずめてわんわん泣きじゃくるエミルの大きな泣き声が、うららかな春のディオアンブラ村の青空に遠く高くこだましていった。




…To Be Continued.

⇒Next Episode.

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