∞11【阿修羅の木刀】

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 イノシシとの『幻覚上での戦い』を終えて、アゾロはふうと息をつく。いくら心の中で行われる『幻覚』の戦いでも、戦いが終わったら疲れるのだ。


 【チュートリアル】は『アゾロの心の中』で行われているとはいえ、実際の戦いでアゾロの体が受けるはずの苦痛や動いた時の体温上昇なども『心の中』では忠実に再現される。

 だから幻覚とはいえ、やりすぎたら多分、『心が先に』死んでしまうのだろう。



 【チュートリアル】画面上には『戦績』が表示されている。これでイノシシとは87戦63勝。連勝記録数は50。


「……もうイノシシはわたしの敵じゃないかもね」


 そう言うと、アゾロは【チュートリアル】の画面上で、躊躇いもなく【VSクマ】を選択し実行した。

 【チュートリアル】画面上では相手の『戦力』や『苦痛』も忠実に再現される。

 つまり、最悪クマに貪り食われるリアルな『幻覚』を相応の『苦痛』付きで体験することになるのに。


 アゾロの目の前の丘の上の景色に、もう一つ重なった『幻覚の森の中』の景色に一頭の大きな『灰色のクマ』が現れた。


 立っているクマの体高は、アゾロの身長の2倍。

 重さの目方はアゾロの8倍くらいか。


 学名、タイリクハイイログマ。

 簡単に言うと、『特別デカいクマ』。

 ど田舎のさらに辺境であるディオアンブラ領に出没するクマは、大きなものになると『大人5人分〜10人分』の目方がある。

 大人の男はおろか腕の立つ傭兵団でも危険すぎる相手だ。

 ヘタしたら国軍所属の『騎士』への出動要請が必要かもしれない。


「……さすがに『武器ドーグ』使わせてもらうね」


 この『武器と書いてドーグと読む』のも、夢のおっさんが使った表現だ。

 【チュートリアル】画面上で【武器有り∇木刀】を選択すると、バーチャルリアリティ上に『木刀のデータ』が『アップデート』される。

 簡単に言うと『幻覚』の中で『木刀』が『使えるようになった』。


 幻覚の中のアゾロの手には、一振りの『自作の木刀』が握られている。斧の柄の予備として削っていた木の棒を父から譲り受けて、アゾロがさらに削って作ったものだ。


 アゾロの夢に出てくるおっさんが若い頃に素振り用として使っていた『修学シューガク旅行リョコーの木刀』を模したものである。『修学旅行』がなんなのかはアゾロには分からない。

 さすがに本物の木刀の『反り』までは再現出来なかったし、夢のおっさんの木刀が『かなり反っていた』理由もアゾロにはよく分からなかった。


 アゾロが自作した木刀の柄の部分には『漢字かんじ』で『阿修羅あしゅら』と彫り込まれている。

 夢のおっさんの木刀を真似して作っただけなので、言葉の意味までは分からない。それに、なぜヌクトリア地方言語しか話したことがなく、神聖アレクシス文字しか読めない自分に『漢字かんじ』が読めるし書けるのかも分からなかった。


 自分に『メニューオープン』が出来たりするのと同様に、さっぱり理屈が分からない。


 このことは家族にも話していない。

 おかしな娘だと思われるからだ。


 とにかく、今は分からないことよりも、目前の【VSクマ】に集中せねばならない。

 アゾロは深く息を吐いて吸った。

 そして、目前のクマに向き直り独りごちた。


「……前みたいに押し倒されて内臓貪り喰われないようにしなくちゃね。……痛いからすごく」




…To Be Continued.

⇒Next Episode.

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