∞31【それが、決まり(ルール)だから】

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 朝食を食べ終えたアゾロと、牛乳を飲み終えたエミルは、庭に出て地面に大きな『サークル』を描いた。『お相撲スモウ』は二人の対戦相手がお互いに取っ組み合って、この『円』の外に足をはみ出したり地面に上半身をつけたりした方が負けとなるルールだ。


「……服汚したり、破いたりしないでよっ」


 昨日の洗濯物が入った籐籠とうかごを持つ母からの警告を尻目に、姉と弟は円の中で蹲踞ソンキョの姿勢で両掌りょうてを下ろし、真剣な眼差しで向かい合う。

 左右対称に立合たちあった姉と弟の間で交錯するお互いの視線が激しく火花を散らした。両者ともすでに気合十分である。しばらくお互いに見つめ合ったまま動かないアゾロとエミル。


 ……しかし、この取り組みには『行司役ギョウジやく』がいない。

 


「……お母さん! 『はっけよい!残った!』って言って!」


 アゾロと見つめ合ったままでエミルが母に言った。

 アゾロとエミルは何度も『お相撲スモウ』を取っているので、この弟はすでにルールは心得たものである。


「……なんで?」


 相撲のルールを全く知らない母が、自分の顎に人差し指を当てながら不思議そうにエミルに訊ねる。この母は当然ながら、『異世界の国にほんの国技』である相撲のことなど全く知らない。


 母は戸惑いながら二人に問いかけた。


「なんで、『はっけよい!残った!』って言うの?」


 母の疑問に対して、アゾロとエミルの二人が声を揃えて応える。


「「それが、決まりルールだから!」」


 いつもは、両者が『はっけよい!残った!』の声を掛け合うのだが、なんとなく今日は真剣勝負だ…と姉と弟のお互いが考えていた。

 お相撲の真剣勝負には『行司役』が必要だろう。


 えぇっ…と戸惑いながらも、母が行司役としてお相撲のサークルの内側に入る。


 相撲のルールを全く知らないながらも二人のむこう正面じょうめんに立った母は、その右掌を互いに向かい合う姉弟二人の間を結ぶ線の中心に添えた。


 そして右掌をすっ…と天高く上げると同時に、おっとりとした声で母は宣言した。


「……『はっけよい!』、『残った!』」




…To Be Continued.

⇒Next Episode.

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