∞46【《弾幕》についてと、『アゾロ的』防衛戦略】

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 アゾロは、丘の上の大きな樹の下で阿修羅の木刀を振りながら、頭の中では別のことを考えていた。


(“中央騎士団”…か)


 ど田舎のさらに辺境に位置するディオアンブラ伯爵領は、二十四ヶ村からなる『ヌクトリア地方』にレオ山系の山々を加えた広大な領土を誇る。……かなり広い。


 しかし、その人口は伯爵領の全領民の総数を合わせても20,000人程度しかいない。しかも、領民のおよそ半数は開拓地を広げるために帝都から移住してきた開拓民の第一世代である。


 領土のほとんどが『開拓地』であり、領民のほとんどが『開拓民』。それが創立16年目のディオアンブラ領の実態だ。


(……それって、ヤバいんじゃないかなぁ?)


 頭の中で別のことを考えながらも、眼の前に舞い落ちてきた木の葉を反射的に木刀で両断するアゾロ。さらにアゾロは、返す刀で両断した木の葉をバラバラに切り裂いた。


 普通、風に舞う木の葉を木刀で“切り裂く”ことはできない。この現象は、アゾロ自身の能力《弾幕バレージ》の効果によるものだ。


 斬撃の瞬間、木刀の剣先に少しだけ《弾幕》の効果を込めている。アゾロがその気になれば、『立ち木のえだ』くらいならば木刀で簡単に両断できるだろう。



 《弾幕バレージ》の精密かつ素早い能力発動の鍛錬をしながら、アゾロは思考を継続する。


 ディオアンブラ伯爵領の二十四ヶ村は帝国に従属してはいるが、ある程度の“自治権”を認められている。『』は。


 しかし、今回は場合が違う。

 

 辺境に中央から騎士団が入るということは、『そのまま侵略』の危険性も有り得る、ということだ。

 なんらかの理由で、ディオアンブラ伯爵領を『皇帝の直轄領』にするために騎士団が派遣されてきた、とも考えられる。


 ということは、ディオアンブラ伯爵領こちらもそれなりに備えておかなければならないのでは?というのが、アゾロなりの物の考え方である。


(……ディオアンブラ領って、どんだけ『兵力へいりょく』持ってるんだっけ?)


 まず、『騎士』である領主の父。

 これが目下、最大戦力である。


 それから、アゾロ。

 地元の皆さん。

 それと、傭兵?

 ……母と、エミル?

 ……イノシ…シ?


(……ヤバいかも?)


 木刀の剣先に《弾幕バレージ》を纏わせて、『剣先にかかる空気抵抗を減らしてみる』実験をしながらも、アゾロは考える。


 ディオアンブラ伯爵領のと呼べるものは、実質的に『アゾロの父一人』しかいない!


 平和でのどかなディオアンブラ伯爵領内には、『クマ用の自警団』くらいしかいない!


 あの『骨密度コツミツド親父』が、色々とサボってきたツケがここに来てとうとうめぐってきた!



「……ヤバいかも!」


 戦慄したアゾロは、声に出してつぶやいた。

 それと同時に、全身を《弾幕バレージ》で包み、全身にかかる空気抵抗を減らしつつ、『空気を弾く力を全身から発する』方法を研鑽するアゾロ。


 さすがに複数のことを全身同時に行うとなれば、スキルの効果が粗くなる。

 でも、攻撃と防御の二種類の振動を『左右の手』に振り分ける程度のことなら、今の時点でも出来る!


「早く強くなんなきゃ!『わたしが』!」


 “能力操作を”という気付きを得たアゾロは、《弾幕バレージ》を纏わせた木刀の攻撃を“斬撃タイプ”と“周囲の空気ごと弾くタイプ”の二種類に使い分けることに開眼する。

 アゾロはさっそく、“弾くタイプ”で敵の攻撃を払いパーリングしつつ、“斬撃タイプ”を敵の体に叩き込む技の研鑽に移る。


 色々と心で思い悩みながらも、アゾロは中央騎士団の一兵卒を軽く凌ぐ実力を身に着けつつある。アゾロの本能は、自らの内面にある“焦りや恐れ”さえも喰らって強くなろうとしていた。



 ──しかし、今のままではアゾロは、正騎士はおろか準騎士にすら勝てはしないだろう。


 『帝国騎士』とは、才能ある者が少しばかり努力をした程度では永久に辿り着かないような、理不尽なまでの“人外の領域”に棲息している者達なのだから。





…To Be Continued.

⇒Next Episode.

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